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「ノドが渇いたら飲んでいた」のに脱水症?

1つめは、そもそも「ノドが渇いた」と感じてから水分を摂ることは、水分補給の方法として正しいとは言えない。

たしかに一般的には、体内の水分が不足すると、脳は「ノドの渇き」という感覚を引き起こして水分補給を促す。だが実は、「ノドの渇きを感じにくいタイプの脱水」もあるのだ。

ここでいう脱水とは、汗をかくことによって、血液やリンパ液など体内をめぐる水分が不足してしまった状態だ。脳は、体内をめぐる水分の不足を、①血液の濃さを測定する「浸透圧センサー」と、②血管の張り具合を測定する「圧センサー」の2つで感知する。

鋭敏なのは①浸透圧センサーのほうだ。血液などの体液から水分が抜け、濃くなった場合によく働く。しかし汗をかくと、水だけでなく大量の塩分も同時に失われるので、体液の濃度は濃くならない。つまり浸透圧センサーでは感知されにくい。

これが「ノドの渇きを感じにくいタイプの脱水」である。

そして正しい水分補給は、「ノドが渇いていなくても、一定量の水分と塩分を定期的に摂ること」だ。

特に登山では、塩飴やエナジーバー(カロリーメイト等)などすぐ食べられる「行動食」で塩分を補給しつつ、30分に1カップくらいずつ水や麦茶を飲むといい。ちなみに、緑茶などカフェインの入っているお茶はNGだ。利尿作用があり、かえって脱水が進んでしまう。

なお、登山は高齢者にも人気のスポーツだが、そもそも高齢者は脱水リスクが高い。年齢が上がるに従って自律神経の働きが低下するため、浸透圧センサーも圧センサーも、ともに感度が鈍くなってくるからだ。

2つめの間違いは、登山に持っていく水分として、水やお茶、スポーツドリンクが多いことだ。

特にスポーツドリンクは、「エネルギーも塩分も補給できる」と思って選んでいる人も少なくないようだ。しかし、脱水時にもスポーツドリンクで用が足りるかと言えば、そうはいかない。

「脱水時はスポーツドリンク」は間違い

事実、スポーツドリンクは発汗で失われるナトリウムなどの電解質を含んでいる。それ以上に、砂糖が多く入っているので甘くて飲みやすい。脱水に至る前ならそれでいい。

しかし脱水状態を治すには、電解質が足りない。

脱水時の備えとしては、「飲む点滴」とも言われる「経口補水液」が安心だ。

もともと医療の現場でも脱水の予防や治療に広く使われてきたもので、日本では大塚製薬の「OS-1」(オーエスワン)が有名だ。今では他社製品も増え、主にドラッグストアでペットボトルやパウチで販売されている。

個人的に登山時に携行をお勧めするのは、パウダータイプだ。大塚製薬の通販サイトで販売されている。500ミリリットル用だとよく使うナルゲンボトル(水筒)にちょうどいいし、山で水が得られれば溶かして飲むことができる。

食塩と砂糖が入っているので、コントロールされていない高血圧や糖尿病の人には有害に作用する可能性はあるが、リスクは低い。むしろ山で筋肉がけいれんしたり、疲労感で動けなくなったり、体調が悪いことのほうが、遭難リスクを上げる(そもそも登山という極限状況に身を置かれることについて、体調をよく判断いただきたい)。

脱水かどうか確信が持てないなら、まず500ミリリットルを飲んでみて判断するのは悪くない。

飲んで30分ほどで元気になれば、その症状は脱水が原因であった可能性が高い。回復しないならば、別の原因を考えなくてはならないし、ひどく体調が悪いならば救助を要請すべきなのは当然だ。

コロナ禍からようやく抜け出した今年の夏は、山小屋やテント場も賑わいが戻ってきている。食堂もアクリル板が撤去され、黙食の必要もなくなった。いい景色を眺め、仲間と会話しながら楽しむ食事は、登山の醍醐味のひとつだ。

山を愛する者として、一人でも多くの人に、安全に山を楽しんでもらえたらと思う。
 



久住英二=文
東洋経済オンライン=記事提供

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