言葉③選択肢がある時に迷いが生じるのは当たり前。大事なのは自分が選ぶこと
Q:将棋は一手一手が選択の連続だと思うのですが、対局中はどのようなことを考えているのですか? そうですね、迷うのは大体2つか3つですね。例えば攻めか受けかの分岐点、相手が攻めてきたので攻め合いに応じるか、受けをしばらく受け入れて、しばらくして反撃する。駒を貯めて反撃するということですね。
それと、もう一つ、大体2つか3つっていうところで長考することが多いですね。確かに指す前でも迷うことはあるんですが、いろいろ迷って結局選んだ手は、そこは自分が選んだ手なので、そのときはもう自信満々に指しますね。
Q:自分の決断を信じることが大事だと? 座右の銘で「英断」って言葉をよく書くんです。師匠の花村九段がよく色紙に書かれてた言葉で、決断をよくって意味なのですが、その「英断」っていう言葉を思い出しながら、しっかり指します。当然ながら、ちょっと首をかしげながら指すと相手に伝わるんですよ。だからもう自分が迷いながらも考えた手なので、あとはどういう展開になろうと受け入れるということですね。
Q:今は選択肢がすごく多い世界でもあります。一つ一つの選択を英断していくためには、どのようなことを意識していけば良いのでしょうか? 確かに選択肢が増えるのは現代の多様性の世界では当たり前だと思うのですが、 やっぱり自分は将棋と一緒で、「なぜそこを決断したのか」が大事なのかなと思います。一旦決めたらもう後戻りできないですから、そこから先の最善手を考えるというところに重きを置くと。
大一番であれば緊張感も出てきますし、迷いが生じるのは将棋でも、社会の選択肢でも当然のことです。だからこそ、「自分が選ぶ」ということが大事なんです。
Q:将棋界は師弟制度があり、深浦さんにもお弟子さんがいらっしゃいます。指導する上で意識していることなどはありますか? 見守るってことを大事にしていますね。将棋を(教えるのは)結構難しくて、師匠が大きな力を及ぼしてもそんなに変わらないですし、10代の子でもしっかりした意欲とか、そういったものがあるので、師匠がいろいろ言っても状況はそんなに変わらないですから。
Q:ー番弟子の佐々木大地七段は同じ長崎出身で、6月から棋聖戦、7月から王位戦で藤井聡太7冠のタイトルに挑戦することで大きな注目を集めています。 佐々木は、自分と同じ長崎県の対馬という離島出身なんですが、11歳の頃に初めて会った当時は心臓病を患ってまして、拡張型心筋症で、鼻チューブをしていたんです。こういう病弱な子が過酷な奨励会、プロを目指す競争の激しいところで勝ち抜けるかどうか非常に悩みました。
ただ、将棋に勝ったり将棋を指す喜びもあってか、お医者さんがびっくりするぐらいの回復度を見せて、体力の回復具合と同時に棋力もどんどん上がり、今は挑戦者として戦えるまでになりました。一度生死を彷徨うという危険な状態にいた佐々木だからこそ、しっかり戦ってくれるかなと本当に期待していますね。
Q:最後に、深浦さんの今後の目指すもの、目標を教えてください。 そうですね。自分は今 51歳なんですが、ベテランの棋士になるとやっぱりタイトル戦っていう最高の舞台に出ることは目標としてますし、大変だとは思いますが、なんとか達成したいですね。自分の良い面を一戦一戦出していけば、決して夢ではない目標だと思ってます。
深浦康市(ふかうら・こういち)1972年(昭47)2月14日、長崎県佐世保市生まれ。12歳で単身上京し、故・花村元司九段に師事。1991年10月にプロ入り(四段昇段)を果たし、93年5月、四段で第11回全日本プロトーナメントで公式戦初優勝。03年朝日オープン優勝など実績を積み、07年9月、第48期王位戦で羽生善治を破り初タイトル。その後、王位を3期保持。自らの呼びかけで将棋連盟のサッカーチーム「ケセラセラ」を結成するなど、サッカー好きとしても知られる。