OCEANS

SHARE

2023.07.23

ライフ

プロ棋士・深浦康市が語る、藤井聡太の「貪欲に次に進もうとする」力



当記事は「THE WORDWAY」の提供記事です。元記事はこちら(第1回第2回第3回)。
「昨日の自分を超える」をテーマに各界のトップランナーの言葉を音声とともに届けるメディア『THE WORDWAY』。音声、インタビュー全文を楽しみたい方はオリジナル版へ。
今回のアチーバーは、棋士の深浦康市九段です。

長崎県佐世保市出身の深浦さんは、小学校時代に将棋の魅力を知り、プロを目指すことを決意しました。卒業後に単身上京し、故・花村元司九段に師事。日本将棋連盟のプロ棋士養成機関である「奨励会」で腕を磨くと、91年にプロ入り(四段昇格)を果たしました。

93年の全日本プロトーナメントで優勝、07年には第48期王位戦で羽生善治名人から王位タイトルを奪取するなど、人気と実力を兼ね備えたトップ棋士として現在も活躍を続けています。

自分の弱さと向き合い、1つの道を歩み続けてきたことで見えた境地は「英断」。迷いを絶ち、一歩を踏み出すために必要なものとは何なのか。

言葉①結果を変えるためには、自分の弱みを受け入れ、ストロングポイントで戦うこと



Q:まずは深浦さんの棋士としての歩みについて伺っていきたいのですが、将棋との出会いは小学生の時だったと聞きました。

始めたのは、小学校1年の時です。自分がすごく内向的な性格だったので、父が何か趣味を持って自信を持ってもらいたいと、教えてくれたのが将棋だったんです。当時は、家庭用ゲーム機とかがまだ出る前で、将棋ブームが全国的にも起こっていたり、小学校も将棋盤は持ってきてもいいと言われていたので、取り組みやすい環境でもありましたね。

Q:具体的にのめり込むきっかけはあったのですか?

小学校4年生の時に、必修クラブで自分は迷わず将棋を選んだんですが、1学年上に野田君という子がいて、やってみたところ全く勝てなかったんです。

初めて悔しいという思いをその時に味わって、佐世保の中で将棋を教えてくれる先生を探して、教えを請いに行くようになったんですね。野田君もその話を聞きつけて、その先生の元にやってきたんです。

そこから奇妙な関係が生まれて、アマチュアの先生のもとで切磋琢磨、競い合うライバル関係が生まれたと。今思えばそうしたライバル関係は大事ですし、野田君に勝ちたいという思いで将棋がかなり上達したと思いますね。



Q:小学校卒業と同時にプロになるために単身上京したそうですが、友人との別れ、家族と離れることに迷いはなかったのですか?

6年生になると長崎県では大人を含めても負けないレベルに到達していたんです。その時に将棋のプロの存在を知りました。私の実家は居酒屋をやっていて、私は長男ですから、父と母は継がせたいという思いもあったようなのですが、おとなしい性格だった自分が「将棋のプロになりたい」と両親にはっきり言ったそうです。

両親は悩みながらも、その決断を受け入れてくれて、埼玉県の親戚の家に居候という形で中学校3年間を過ごし、東京にある将棋の養成機関、プロの養成機関の「奨励会」を受験しようという話になったんです。



Q:将棋界のルールとして「奨励会」に入らないとプロになれないのですか?

そうです。奨励会も、その受験に受かって中1から奨励会員として、プロの卵としての生活が始まりました。

将棋のプロは本当に実力主義で、月2回の例会に、東京の千駄ヶ谷にある将棋会館に通って、(6級から3段までの)昇級を目指すというものなんです。なので、対局以外は自由で、「自分で磨きなさい」という世界なんです。

Q:プロになれるのは1年間に4人という狭き門だそうですが。

奨励会の制度で年齢制限があり、21歳までに初段、26歳までにプロ4段にならないと自動退会になるんです。将棋一本でやってきた人が世間に放り出されというのはかなり厳しいですよね。私の場合は、プロになって恩返しというか、佐世保で将棋を教えてくれた皆さんに恩返ししたい、両親に恩返ししたい、そういった思いだけでやってました。

15歳から一人暮らしを始めて、本当に将棋漬けで、「とにかくプロになって佐世保に帰るんだ」と。プロになった自分の姿しか想像したことがなかったですし、負けてもまた練習して次に勝てばいい。ただ、そこからまた頑張って、次の勝利を目指しましたね。



Q:深浦さんは35歳の時に、九州出身棋士として23年ぶりとなるタイトル王位を獲得され、08年は最高段位となる九段昇段を果たしました。「好き」を貫いて、結果を残すためには何が必要なのでしょうか。

一番大事なのは自分の強み、ストロングポイントを最大限に出すことかなと思うんです。

今、将棋界の一番の方は藤井聡太さんですけど、全てのスキルが高いし、なかなか隙がないんですが、自分の強みをぶつけることによって、化学反応じゃないですけど、少しの動揺というか、少し感情が揺らぐ時があるんです。

ですので、羽生さんとか藤井さんとあたるというときには、まずは自分の弱みを受け入れること。そして、その上で自分の強みを発揮して戦うことを意識しています。自分の場合は諦めずに泥臭く、相手がうんざりするぐらい泥臭く戦っています。粘り強く、ポッキリ折れないのが自分の良さでもありますし、ストロングポイントでもあるのかなと思っています。

ストロングポイントをぶつけることによって結果が変わってくることはありますし、色んな奇策をやったりして、最初から自分の慣れないことをするよりも、一番自分の強みで戦うことは大事だと思いますね。


2/3

次の記事を読み込んでいます。