イチボのタレ焼き(写真はすべて「京松蘭」のもの、提供=yuppo621)
当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら。 言論プラットフォーム「アゴラ」元編集者で、黒毛和牛を提供する焼肉店「京松蘭」の高橋大樹氏に以下、台頭する「焼きしゃぶ」人気について、「黒タン」をめぐる業界のドラマについてご寄稿いただいた。「京松蘭」は焼肉をアラカルトではなくコースで、また一品目には必ず「ロースの炙り」を提供する主義の店として知られる。
ファーストオーダーの鬼定番が「タン塩」である理由
焼肉屋に行って最初にオーダーするものといえば、いつの頃からか「タン塩」が定番だと考えられてきました。
「『とりあえず、タン塩で』 まずは、ファーストオーダーの鬼定番は、タン塩です。焼き肉店に行って最初にタン塩を頼む人は多いでしょう」(焼肉作家・小関尚紀さん|東洋経済オンライン)
叙々苑の創業者である新井泰道さんの著書『焼肉革命』によると、「タン塩」というメニューは叙々苑から始まったとか。1976年(昭和51年)に六本木1号店がオープンしてまもないころ、肉の卸業者からの提案で生まれたといいます。
だとすれば、それがファーストーダーの定番になったのはそれから現在までの40~50年の間。つまり、「とりあえずタン塩」という文化はまだ比較的歴史の浅いものであるといえるでしょう。
タン塩は、焼肉が好きな人ならみんな大好きなメニューです。でも私たちのような和牛にこだわる焼肉屋には、タンの人気だけが過熱していくことを手放しで喜べない事情があります。
「黒タン」をめぐる熾烈なる争奪戦
タン塩はいまやどこの焼肉店でもみられるほど超人気メニューになりました。その人気ぶりはSNSにも顕著にみられ、インスタグラムで「#焼肉」とハッシュタグ検索すれば、いろいろなお店のタン塩の写真が次から次へと出てきます。
黒タンの塩焼き(以下写真はすべて「京松蘭」のもの、提供=yuppo621)
タンのなかでも世界最高とされるのは日本の“黒タン”ですが、年間300日は牛肉を食べるという「肉バカ」小池克臣さんによると、日本一大きな東京食肉市場の1日のと畜で得られる黒タンは200本ちょっと。その黒タンをめぐり、東京にある2000軒以上と東京以外も合わせた何千もの焼肉店が争奪戦を繰り広げているといいます。
私たち「京松蘭」も黒タンを仕入れられる焼肉屋ですが、じゃあ「もうかってしゃあない」と毎日喜んでいるかというと、決してそんなことはありません。
焼肉店の仕入先である卸業者を対象にした牛肉の販売動向についてのレポートを読むと、和牛業界がある深刻な課題を抱えていることが書かれています。
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