初代「インヂュニア」は1955年に誕生。パイロットウォッチで培った耐磁ケースの技術を注ぎ、8万A/mの高耐磁性能は、高い磁場が発生していた研究開発や検査、製造の現場で活躍した。理系の洗練が漂う機能美は、巨匠ジェンタの創造性を刺激したに違いない。
▶︎すべての写真を見る 時計ブランドを代表する名作も、その地位に安穏としているといつしか魅力は薄れてしまう。常に磨きをかけて新鮮さを失わないことが肝要で、むしろそれを続けてこそ定番になる。
好例が「インヂュニア」だ。新作ではシリーズの絶対的存在である「SL」にスポットを当てた。
ジェラルド・ジェンタ (1931〜2011)。スイス人の時計デザイナー。1960年代に頭角を現し、「ノーチラス」や「ロイヤルオーク」といった数多の傑作時計を手掛け、独自のスタイルを確立した。“時計界のピカソ”とも讃えられる。
1976年にこのデザインを手掛けたのがジェラルド・ジェンタ。多くの名作を生み出し、デザインスケッチはすべて原寸だったというから驚かされる。
圧倒的な発想と創造性はまさに巨匠と呼ぶに相応しい。
今回はこれにリスペクトを込め、ラグのサイズや形状の見直しをはじめとする装着感の向上やベゼルビスの機能化、さらにオリジナルにも施されたグリッドパターンをより強調し、個性をアピールする。
「インヂュニア・オートマティック40」SSケース、40mm径、自動巻き。 156万7500円/IWC 0120-05-1868
当時と変わらぬケースサイズに、精度に影響を与える磁場を遮断するための軟鉄製インナーケースを内蔵。リュウズガードも先代に比べると小さめになり、「SL」のテイストを損なわない。
デザインとして利いている5つのビスはベゼルとケースを固定させる役割も持つ。
「インヂュニア SL」。
こちらがデザインの基となった「インヂュニア SL」。
ジェンタは、オリジナルスタイルであるCラインのシェイプや一体型ブレスレット、ベゼルビスを取り入れつつ、計器を思わせる正円やダイヤルのシャープなグリッドパターンによってエンジニアリングの世界観を表現した。
「インヂュニア」はドイツ語でエンジニアという意味を示すとおり、製造の現場で求められる機能と見合ったデザインを纏う。
そのコンセプトを真摯に受け継ぐ本作は、まさに「シン・定番」の一本だと思うのだ。