スキーを題材にしたねぶたはアリかナシか?
星野 だめならだめって言ってもらいたいんですけども。私はスキーばっかりやっているので、青森って八甲田山のイメージが強いんですよね。スキーを題材にするのは、伝統にとってはマイナスですか。
毎年4〜5日は八甲田山でスキーをするという星野。年々、ギアも日本製へのこだわりが増え、この写真ではスキーパンツはBogen、スキー板はベクターグライドを使用してるそう
北村 ちょっと、まだ早いかもしれないですね。
星野 ははは、やっぱりそうですよね(笑)。「ちょっとまだ早い」。
北村 そうですね。これから何十年も経ってきたら、可能性があるかもしれないですね。
「まだちょっと早い」けれど、いつかはスキーのねぶたが…?
星野 そうかあ。確かに、神話に出てこないもんな。スキーをもっと青森の伝統にしていかなきゃいけないのか。昔の人たちはレジャーじゃなくて、実用的なものとしてスキーをやっていたらしいんですよ。北海道に「ウポポイ」っていうアイヌ民族の博物館ができたんですが、そこにアイヌの人たちが昔使っていたスキーが展示してあったんです。でもやっぱり、もっと古くなきゃいけないんだな。
北村 アイヌは、ねぶたで描かれることがあるんですよ。
星野 そうですか、アイヌはいいんですね。感覚的なものだと思うんですが、どこにラインがあるんでしょうか?ちょっとずつ、これまでにないものに挑戦する人が出てくるんでしょうか?
北村 そうですね。新しい題材に挑戦する人もいます。
温泉に浸かるねぶたのオファーに「どうしたものか」と戸惑った
星野 「青森屋」では、ねぶたがお風呂に浸かっている作品をつくっていただいたのですが、オファーがきたときのことは覚えていらっしゃいますか。
北村 「ねぶたがお風呂に浸かって、気持ちよさそうにしているところ」っていうオファーをいただいて、「いやあ、これはどうしたものか」と思いました(笑)。ねぶたって、眉間にしわを寄せて、鋭い目で勇ましく戦っているシーンが多いので、最初はできるかなと、すごく悩みましたね。
星野 すごくよくできています。素晴らしいです。
北村 いろいろとイメージを集めました。温泉に入ったおじさんの顔とか。表情は一番苦労したところなので、何とかかたちになってよかったです。
戦いの後に温泉に浸かっているような、気持ちよさそうな表情。これを表現するのに苦労したそう
星野 あの作品の制作期間はどれくらいだったんですか。
北村 トータルで3週間ぐらいだったと思います。ねぶた師だったら、こういうのをつくろうとは考えないんですよ。でも、私たちの固定観念にないものをオーダーされることで新しい発見があったり、新しいものが生まれてきたりするので、いい経験をさせていただきました。
星野 その基準って面白いですよね。感覚的なもので、いけないっていうわけではないんですもんね。やはり、地域文化に根ざしていく題材ってことかなぁ。それなら私は、スキーが地域文化だと北村さんを説得していかなきゃいけないわけだな。
星野はなんとかして、北村さんにスキーを題材にしたねぶたをつくってほしそう
<3回目に続く>
北村麻子
1982年10月生まれ、ねぶた師史上初の女性ねぶた師。父親であり、数々の功績を残すねぶた師の第一人者である六代目ねぶた名人の北村隆に師事。2007年、父親の制作した大型ねぶた「聖人聖徳太子(ねぶた大賞受賞)」に感銘を受け、ねぶた師を志す。2012年、青森市民ねぶた実行委員会から依頼されデビュー。そのデビュー作「琢鹿(たくろく)の戦い」が優秀制作者賞を受賞したことで注目される。