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フィンランドのサウナには「時計」がない

ところが、この質問を投げかけてすぐに具体的な回答を返してくれるフィンランド人は、ほとんどいないかもしれない。

なぜなら、そもそもフィンランドのサウナに時計が存在しないからだ。

代わりに、「その人が、その日いたいだけサウナにいればそれでいい」というのが、多くのフィンランド人からもらえる本質的なベストアンサーであろう。

フィンランドのサウナには「時計」が存在しない。それは「1セット何分」という外的な指標に縛られることなく、「その人が、その日いたいだけサウナにいればいい」という考えが根付いているから(写真提供:こばやし あやなさん)

フィンランドのサウナには「時計」が存在しない。それは「1セット何分」という外的な指標に縛られることなく、「その人が、その日いたいだけサウナにいればいい」という考えが根付いているから(写真提供:こばやし あやなさん)


フィンランド人は、サウナ浴を楽しむ時間が外的な指標に縛られることを、とにかく好まない。

だからこそ、サウナ室内に時計は必要ないと思っているし、入浴時間はその日の自分の体調や調子、サウナの設定環境と相談して決める。

端的に言えば、「出たくなったら出る」を繰り返しているだけなのだ。

友人と一緒にサウナに入るときも、どれだけ話が弾んでいても出たいほうが突然勝手に出ていくし、そのとき自分がもっとサウナにいたければ、無理に追うこともしない。

ハルユ氏は、「サウナは目標を達成するための場所ではなく、その日その瞬間に身体が発するメッセージに耳を傾ける場所だ」と主張する。

確かに現代生活においては、心拍や睡眠の深度さえもスマートウォッチなどの出す数値データに依拠し、自分自身で身体の声を聴く機会や能力が損なわれてしまっているのかもしれない。

サウナ室こそ、忙しい毎日の中でしばし歩みを止めて、自分自身にじっくり向き合い、「調子はどう?」と直接尋ねてあげるのに最適な場所なのだ。

日本のサウナでも、たまには時計を見ることを放棄して、サウナの熱の中で、時間の経過とともに「自分の身体が何をどう感じているか」……ということだけに意識を集中させる時間をつくってみてはどうだろうか。

また、サウナ初体験の人は、初心者の反応を見ながらペースを合わせられる人と一緒にサウナに入るのが安心だろう。

日本人のサウナ愛好家が必ず実践するのが、「ととのう」という言葉が含有する快感を求めて、「サウナ→水風呂→外気浴」の順番で行き来する入浴法だ。

日本のサウナ室の横には、キンキンに冷えた地下水や冷却水を貯めた「水風呂」があるのが当たり前。

だから、フィンランドにサウナ旅に来た人はしばしば面食らってしまう。なぜなら、フィンランド・サウナのそばには「人工的な水風呂」がないのが普通だからだ。

たとえば、自宅のサウナに入るときは、サウナ室を出てからシャワーで軽く真水を浴びて、ベランダで涼む。あるいは冬場は、庭に積もった雪にダイブして身体を冷やすこともある。

また、もしサウナが湖畔や海岸にあるなら、その「天然の水風呂」に飛び込む人も少なくない。

たとえ真冬であっても、(サウナの有無にかかわらず)凍った湖に穴を開けて「アイスホールスイミング」を楽しむのも、フィンランド人のあいだで根強く人気のある健康法だ。

凍った湖に穴を開けて「アイスホールスイミング」を楽しむのも、フィンランド人のあいだで根強く人気のある健康法(写真提供:こばやし あやなさん)

凍った湖に穴を開けて「アイスホールスイミング」を楽しむのも、フィンランド人のあいだで根強く人気のある健康法(写真提供:こばやし あやなさん)



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