渡辺真史●1971年、東京都生まれ。ベドウィン & ザ ハートブレイカーズのディレクター。ローカルとインターナショナル、2つの視点で東京をクルージング。
▶︎すべての写真を見る 渋谷駅前にそびえ立ち、今年で22周年を迎える「セルリアンタワー東急ホテル」。
総支配人(現在は首都圏エリア統括)の八木進午さんと、40階のスイートルームにて言葉を交わす。
渡辺 海外の友人がよく泊まるので、ここは僕にとっても馴染み深いホテルです。僕自身は宿泊しませんが、迎えに来たり見送ったり。みんな昔からここを拠点にしたがるんです。
八木 ありがたいですね。2001年の完成当初は、渋谷でいちばん高い建造物でした。当時はいわゆるミレニアムで、国境を超えて世界がつながる時代の幕開け。そんな動きの中心が渋谷でしたし、このホテルだとも自負しています。海外からのお客様が多いだけでなく、グーグルの日本法人など多くのIT企業が入居していました。
渡辺 ロビーを見ても、本当にいろんな方がいます。その光景が美しいし、スタッフの対応も素晴らしい。サービスが決して過剰でなく、自然体で居心地がいいです。すごく“日本的”というか。
八木 日本人らしさ、その土地らしさは重視しています。沿線を開発する東急が母体ですしね。無駄を削ぎ落としたシンプルさにも、日本的美意識が表れているかもしれません。
渡辺 華美なブティックホテルでもなく、ビジネスホテルでもない。館内に素敵なレストランや宴会場があるけど、道玄坂で飲んでも歩いて戻れる。雑多とラグジュアリーが同居する感じがすごく東京的で、渋谷的。
八木 時代とともに街は変わります。特に渋谷は変化が激しい。それに乗り遅れることなく、街と一緒にホテルも成長しなくてはなりません。
渡辺 なるほど。その一方、変わりゆく渋谷という街で、このホテルがあり続けることの安心感が身に染みます。そうだ、友人から聞いた印象的なエピソードがあって。
八木 どんな話でしょう?
渡辺 チェックインして荷ほどきを終えたあと、どこか不都合があって友人は部屋を変えたんです。で、飲んで帰ってきて新しい部屋に通されると、前と同じ間取りの部屋に同じように荷物が置いてある。真偽はわからないけど、脱いだ服の形もまったく一緒で。部屋を変えたのがわからないくらい自然だったそうです。「こんなサービスは世界のどこにもない。クレイジーだ!」って感動していました。
八木 はは(笑)。お客様に合わせたスタッフなりの気遣いでしょうが、そんなところも日本人らしさ、セルリアンらしさなのかもしれませんね。
移りゆきつつも普遍的。“空色”を名に冠した渋谷のホテルは、今日も人々を気持ちよく迎え入れる。