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海は教会や瞑想の場となり傷ついた心を癒やしてくれた

こうしたメンタルヘルスへの好影響が期待されるものの、アメリカにおいてさえもサーフセラピストの公的資格は存在しない。

いわば自称でまかりとおってしまう状況であり、それゆえクリスさんはより真摯に向き合い、企画を立案する人、サーフィンスキルに長けた人、心理学者、作業療法士、スポーツ心理士、セラピスト、言語聴覚士、理学療法士ら多くの専門家の力を集結してプログラムを実施してきた。

そうして実績を積み重ねてきたうえで、やはり資格制度を構築するなどサーフセラピーの枠組みを体系化していきたいという。それが今以上に社会的認知度を高めるためでもあると考えている。

「アメリカ海軍による研究を含め、現在のところ医学的、科学的な見地から、サーフィンのセラピー効果が立証されたわけではありません。

ただ、ひとたび波に乗った人なら、サーフィンのあとは気分が良くなることを知っています。そして、プログラムを体験したあとも波に乗り続ける参加者たちの存在は、彼らの人生が前向きに変化した証しだと言っていいでしょう。

サーフィンは心の病に苦しむ人々の生命を守ることができるのです」。

実はクリスさん自身がサーフィンに癒やされ、救われた張本人だ。

’10年にロサンゼルスに近いビーチタウンのマンハッタンビーチへ移り住んだことをきっかけにサーフィンを始めた頃、彼女の最愛の父親が重病に冒されてしまった。その事実に心は深く傷つき、それでも海の中で波を追っているときだけは、頭の中を空っぽにすることができた。

悲しい別れが訪れたときも同様だった。海が祈りやメディテーションの場となり、癒やされ、歩みを前へ進めさせてくれたのだ。

この出来事がひとつの転機となって、サーフィンとともに生きることを決断したのだとクリスさんは言う。自身と同様に心が傷ついた人を救うため「ISTO」を設立し、世界中の海へたくさんの旅をして実施と研究を繰り返し、仲間を増やしていった。

設立当初に8つしかなかった関係団体は、今日では6大陸に130以上が存在するまでに発展。彼らは常に連携しながら、心を病む人たちのつらい日々を幸福なものに変えるサポートを続けている。

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Ken Pagliaro=写真 小山内 隆=編集・文

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