人の来ないビーチは、とても汚れていた
現代美術家 藤元 明さん●1975年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部大学院デザイン専攻修了。イタリアのコミュニケーションリサーチセンター「FABRICA」の在籍を経て、現代美術作家として活動を開始。社会現象や環境問題をモチーフとして作品展示やアートプロジェクトを展開。2015年より都市の余白を活用する「ソノ アイダ」を主宰する。
創作を決めたあとも、海ごみを通して社会の暗部を知っていく。
「清掃は予算の限られた税金を投下して行われますから優先順位がついていくんです。最もプライオリティが高いのは、海水浴場など地域に経済効果をもたらす観光資源として評価の高い海岸。
逆にプライオリティが低いのは人の来ない海岸です。そこは永久にと言っていいほど、公金を使って清掃されることはありません。そのため人の集う海にはごみひとつないけれど、すぐ横にある藪を抜けた、わずか20m先にある浜はごみだらけ。そのような現実が、この社会にはあるのだと知りました」。
白砂の美しい砂浜と青い海は、誰かが清掃して人工的に生み出されているものなのだ。そのような思いは、偶然出会った地元の海女さんの言葉によって決定的となった。
「3代続けて海女を生業にしてきたと言うその人に『最近、海のごみがひどくなっていませんか』と聞くと、『いや、全然』と答えたんです。『昔から変わらないよ』と。
ご自身の若い頃などは社会の環境意識も低く、今以上にごみを海に捨てていたので、『今さら何を?』という感じなんです。そのときに悟りましたね。もとから海はキレイではないんだな、と」。
海は汚れている。そのことを可視化したいと藤元さんは創作に入ることにした。アトリエにしたのは能登半島のとある海岸。五島列島のときと同じく人のアクセスがかなわない場所であり、たまたま能登半島に移った知人に紹介してもらった地元の漁師の案内がなければたどりつけないところだった。
そして大小さまざまな岩がゴロゴロと転がる海岸で、藤元さんとスタッフは水平な場所を作ることから始めた。次に45kgもの鉄板を持ち運び、設置を終えると下から火で熱し、海辺で拾った素材を焼いていった。
様相は、まさに大いなる肉体作業。それでいて経済的な利益が目的ではないところが酔狂だといえる。モチベーションは「アート作品として、これまで誰も手掛けていない」ことにあり、そうして6日間もの時間を費やし、「Last Hope」の作品群を完成させた。
3/3