▶︎すべての写真を見る 「訃報のニュースは、その人の人生が俯瞰できる」と話すのは、Forbes JAPAN編集長の藤吉雅春さんだ。
今回は2022年に亡くなった大物政治家や経済人について、藤吉さん自身の取材経験も絡めて語っていただいた。
▶︎重大ニュース【前編】も読む 教えてもらったのはこの人 藤吉雅春(ふじよしまさはる)Forbes JAPAN編集長。1993年から雑誌媒体を中心に、政治・経済・社会問題・人物インタビューを中心にノンフィクションライターとして活動。
安倍元首相、凶弾に倒れる
参院選期間中の7月8日、奈良県奈良市で遊説を行っていた安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した。総理経験者が襲撃され、死亡するのは戦後初めて。戦前を含めても、1936年の「二・二六事件」以来7人目だ。
「同じ時代の空気を吸っていた人たちが突然亡くなられたのが今年の訃報の特徴でした。特に安倍晋三さんは、彼が官房副長官だったときに仕事で出会い、北朝鮮の首脳会談のことなど、何度もインタビューしました。
ところが、第一次政権のときに僕が書いた記事が安倍首相に批判的だったこともあり、それ以来付き合いもなくなったんです。結局、一度首相を辞めて、この人はどうなるっていくんだろうと思っていたら、また首相になられて……人生の『物語』は本当に読めないな、とそのとき思いました。
第二次政権は長期政権になったもののやはり辞任し、今後は政界に院政を敷いて力を残していくのかなと思っていたら、旧統一教会というまったく想像していない問題から銃弾が飛んできて亡くなってしまった。
本当に予期できないところで物語はプツッと切れてしまうことをこのニュースから感じましたね。変な意味ではなく、ドラマチックな人生を送られたのだなと思いますね」。
ソニー出井氏死去、ネット時代の先駆者
Forbes JAPAN 2020年06月号より
6月2日には、ソニーの社長や会長を10年間にわたって務めた実業家、出井伸之氏が死去した。藤吉さんは、出井氏の人生も、安倍元首相と同じようにドラマチックだと評した。
「出井さんが社長になってソニーは過去最高の業績を上げたものの、会長就任後に赤字に陥り、株式市場でソニー株が大量に売られる『ソニーショック』が起きます。出井さんへの批判も集まっていましたね……。それでもその後、ソニーは大復活し、最高益の企業となりましたが、それは出井さんの『早すぎた計画』を今になって実行したから、成功したんです。
『人の評価ってこんなに変わるのか』とそのとき驚きました。あんなにボロクソに叩かれていた人が、今や『出井さんのおかげ』って言われているんですから。
確かに、出井さんには時代が早く見えていました。『インターネットの時代がやってくる』と言って、ソニーは製造業から脱却するとまで言っていました。結局、世の中はその通りになったんですけどね」。
京セラ稲盛氏とブックオフ坂本氏、師弟の二人が相次いで死去
Forbes JAPAN 2017年08月号より
1月にブックオフ創業者の坂本 孝氏が、8月には京セラ創業者の稲盛和夫氏が死去した。生前は師弟関係にあった二人。
不正会計やパワハラを追及され、失意の中でブックオフを去った坂本氏だったが、師匠の稲盛氏に叱咤激励されて、「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」を経営する「俺の株式会社」を創業。30店舗以上を展開する会社に成長させた。
「坂本さんとは縁がありまして、『俺のフレンチ』がヒットする前から話を聞いていたんです。大成功した後、坂本さんから『なんで成功したかわかる?』って聞かれたんですよね。その答えが『俺は稲盛イズムをやっているだけ。稲盛さんに言われたことだけをやっているから、俺は成功したんだ』でした。
『どういう意味ですか?』と聞いたら、『ビジネスとか、モノを売るっていうのは、恋愛と一緒なんだ。恋愛っていうのは美しい誤解なんだ。ビジネスでは、錯覚を起こすことが重要なんだ』と。
Forbes JAPAN 2017年10月号より
『俺のフレンチ』は、料理人が下積みしてもお金が貯まらず、離職してしまう状況を見て、料理人が自立できるレストランを始めようと思ってスタートさせたそうです。
利益率の高いフレンチやイタリアンを立ち食いで提供して、客の滞在時間を減らす。それは、『料理人を助けるための発想なんだ』『これは稲盛さんの利他の精神から学んだんだ』と言っていました。
やっぱり心の師匠を持つのは大事なんだな、と思いましたね。二人の相次ぐ訃報をニュースで知り、このことを思い出しました」。
藤吉さんが気づいた時代の共通項「ウェルビーイング」
ここまで藤吉さんとともに、今年の重大ニュースを振り返ってきた。最後に今年全体を振り返って、藤吉さんはある時代の共通項が見えたという。
「これからは組織のためではなくて、個人の生き方、働き方が問われている時代になってきたなと思います。
僕たちの世代は、レールに乗っていればよかったんですよ。右肩上がりの時代に青春時代を過ごしているので、絶対上手くいくという根拠のない自信を持っていたのですが、今の若い人たちは環境が違う。
自分の会社の中での立ち位置とか、会社に尽くそうとか、そんなのはさらさらない。それでも働かないといけないという中で、なんで自分はこの仕事をしているのか、なんでこういう生活をしているのか、自分も含めて、意識のレベルがみんな変わっていったと思います。
『ウェルな状態』にいるにはどうしたらいいのか。みんなそこに向かって走っていることを感じた1年でした。今年の共通点はそこですね」。
◇
もうすぐ新しい年の幕開け。今年のニュースに改めて思いを馳せつつ、来年は自分にとってのウェルビーイングな生き方を模索したい。