人によっては30代から始まる男性更年期。気になる方は医師による自己チェック表で確認を(写真:プラナ/PIXTA)
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です。元記事はこちら。 中高年男性の6人に1人がかかるといわれる※ 更年期障害。男性ホルモンの減少によって現れる、女性の更年期障害と似たような心身の不調、症状を指す。
1979年に男性医学の父・熊本悦明医師が日本医学会総会で「男性にも更年期がある」と発表したとき、「生理のない男にそんなものはない」とキワモノ扱いされた。今ではその存在は事実として知られるようになってはきたが、まだまだ認知度は上がっていない。
今回はこの男性更年期障害の原因や兆候について、泌尿器科医の田村貴明医師(千葉大学大学院医学研究院泌尿器科)に話を聞いた。※2014年総務省統計より
働き盛りの40、50代は、体力や気力の衰えを感じても、疲れやストレスのせいにしやすく、男性ホルモンのテストステロンの低下を疑う人は少数派だろう。しかし、30代でもテストステロン低下によるプレ更年期が始まっている可能性があり、決して他人事ではないという。
「“朝起きられない”“疲れがとれない”“仕事に行きたくない”。この3つを頻繁に口にするようになったら、典型的な男性更年期のつぶやきなので、少し気にかけてほしい」と、田村貴明医師は指摘する。
単なる疲れ、ではない
「私自身、現在30代半ばですが、同年代の友人から“最近、眠れない”と相談を受けることが増えました。よく話を聞いてみると、“朝起きてもまったく元気が出ない”“仕事に行きたくない”“夜間にトイレに起きることが増えた”と、まさに男性更年期の症状そのものです。しかし、多くの人は仕事が忙しく、単に疲れが溜まっているせいだと思い込んでいます」(田村医師)
男性更年期は、正式には「加齢性腺機能低下症」あるいは「LOH症候群」という。
代表的な男性ホルモンであるテストステロンは精巣(睾丸)で作られ、性欲を高める、筋肉や骨格を作る、活力を増すなどの働きをする。分泌量は20代をピークに徐々に減り、重度のストレスがかかるとさらに低下する 。その影響で男性更年期障害が引き起こされる。
では、30代後半から50代にかけて、自身の不調の原因としてテストステロン低下を疑うべきポイントはどこにあるのか。
「一番わかりやすいのは、早朝勃起の有無です。これはエロチックな勃起とは無関係な“男の生理”であり、テストステロン低下の影響が鋭敏に現れます。また、陰茎の血管は心臓や脳の血管と比べて細い。朝立ちがないということは血管が硬くなりはじめている、いわゆる動脈硬化のアーリーマーカーです。放置していると、心臓や脳の動脈硬化へと進行していく恐れがあります」(田村医師)
このほかにも、以下のような症状が起きてくる。
身体症状:動悸、顔のほてり、発汗、頭痛、めまい、耳鳴り、筋量や筋力の低下、肩こり、腰痛、関節痛、手足のこわばりやしびれ
精神・神経症状:不眠、疲労感、くよくよする、不安感、集中力や記憶力の低下
性機能症状:性的欲求の減退、早朝勃起の減少
これらは単独ではなく、組み合わさって生じるが、特に男性では身体症状より精神・神経症状が強く出やすい傾向にあるそうだ。
注意したいうつ病との鑑別
注意したいのは、うつ病との鑑別だ。
「気持ちがふさぐ」「体がだるい」「眠っても疲れがとれない」といった症状が出た場合、うつ病かもしれないと思って心療内科に駆け込むケースもあるだろう。そこで抗うつ薬を処方してもらうことがあるが、実は「抗うつ薬を服用すると、テストステロン値が下がることがあるので注意が必要です」と田村医師は忠告する。
「個人的には、患者さんがうつ症状で心療内科へ足を運ぶのはよいことだと思っています。ただ、心療内科的なアプローチが奏功するケースもたくさんある一方で、抗うつ剤を複数処方されてもなかなか改善が見られないケースも確かにあります。これは、テストステロン低下によるうつ症状の可能性があります。心療内科の医師たちに男性更年期という概念がもっと広がれば、上手に連携して治療できるのではと期待しています」
ちなみに、テストステロン値を低下させる原因になり得る薬はほかにも報告されている。例えば、前立腺がんや男性型脱毛症の治療で使用される抗男性ホルモン薬、アレルギーの病気に使われる抗ヒスタミン薬、LDLコレステロールを下げるスタチン製剤、降圧剤などだ。ただし、これらに含まれる薬がすべてテストステロンの低下を招くわけではないので、専門医と相談することが大切だ。
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