さて、里英さんが人力車の俥夫というアルバイトを選んだのは、ガンプ鈴木さんという男性が人力車で世界を旅する動画を見たこと。さっそく応募したところ、ガンプさんも同じ東京力車の所属だった。
そして、今回の推薦人は俥夫の大先輩、及川 唯さん。なんと元プロボクサーだという。
「いまウチには20人ぐらいの女性俥夫がいますが、もともとはほぼ男性のむさ苦しい職場。でも、里英がSNSで動画を発信し始めてから、女の子からの応募が急に増えました。
彼女自身、一生懸命走ってくれているけど、いてくれるだけでもありがたい存在ですね」。
「男の俥夫も里英と会話できるだけで嬉しそう」と及川さん。
しかし、浅草にはほとんど来たことがなかった里英さん。研修を受けながら、街に関する知識や歴史を必死で勉強した。
研修時に使っていたまとめノートは、いまでも時々読み返す。
というわけで、いざ出発です。
車でも徒歩でもない景色はかなり新鮮。
やがて、スカイツリーのビュースポットに到着。
これはすごい。
里英さんが「スカイツリーの高さはご存知ですか?」と聞く。武蔵国だから634メートルですよね。「大正解です!」。
それぐらいは知っていますよと思っていると、細い路地に挟まれるようにスカイツリーが立つという面白い風景を案内してくれた。
さすが、これはガイドなしでは発見できない。
「隙間ツリー」と名付けたそうだ。
続いて、通りかかったのがこれまた浅草の定番名所「神谷バー」。電気ブランが有名ですよねと振ると、里英さんの説明ははるかに濃かった。
「あのビルは空襲で奇跡的に焼け残ったので、浅草で一番古い建物なんです。浅草の復興の象徴、中心地ということで住所が1丁目1番1号となっています」。
うわ、気付かなかった。
浅草にサンリオショップがあることも知った。オープンは2019年。
「キティちゃんの目が開いていますが、あれは夜になると閉じるんです。眠っているということで」。
単なる観光ガイドを超えた解説。
浅草らしいB級グルメも教えてもらった。
メンチカツ、天ぷら、トンカツ、唐揚げなどの匂いを嗅ぎながら、その名も「もんじゃころっけ」(400円)。つうは「もんころ」と略すらしい。
出来上がりを待つ人々で賑わっている。
もちろん、人力車に乗りながらいただきます。
なんというか、もんじゃよりはコロッケよりの味だった。とにかく、浅草らしいことに変わりはない。
浅草六区通りにて記念撮影。
人力車は日本固有のものかと思っていたが、よく考えたら海外にも似たような乗り物はある。里英さんがマレーシアで撮影したという壁アートの写真を見せてくれた。
「世界遺産の街、ジョージタウンにストリートアートが有名な一角があって、そこで人力車の絵をたまたま見つけました。日本人っぽい紳士が乗っています」。
マレーシアでは人力車を「トライショー」と呼ぶ。
このアルバイトを始めた当初は声を掛ける営業が苦手だった。しかし、数字にとらわれず、自分が楽しむことだけを考えるようにしたところ、営業成績も上がったそうだ。
現在、大学3年生。すでに、大手IT企業への就職が決まっているが、もしかすると卒業後も休日は人力車を引いてくれる……かもしれない。
では、読者へのメッセージをお願いします。
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[取材協力]東京力車https://tokyo-rickshaw.tokyo