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「バーチャル彼女」で十分? 怒らない設定にはできるけど……

星野 AIが進んできた場合に「旅」というのは、今とどう変わるのでしょうね? 現地の様子は画像でキレイに360度見えてしまうし、動画でもシェアできてしまう。一度も行ったことがなくても、遠い地の情報は手に入りますし。旅に魅力を感じる人が減っていくような気がして心配なんですよ。

安宅 旅の未来ですか。私はよりいっそう、人間は生(ナマ)、ライブに向かっていくはずだと思いますけどね。

星野 そうですか?

安宅 バーチャルリアリティ、VRが運べる情報というのは相当狭いんで。

星野 ビジュアルしかないですね。

安宅 はい。とは言いつつ4DXみたいなのもありますけれど。4DXというのは画像が3Dである上に、振動とか匂いとか音とか、首に寒い風が吹き付けられるとか、タコが自分の脚に絡まってくるとかいう疑似体験ができるものですね。

星野 椅子がガタンと動いたりするあれですね。

安宅 はい。あれを経験すればするほど、リアルを体験したくなりませんか。

星野 それはそうかもしれません。

安宅 たとえば「VR彼女」で十分な時代が来るという人は多いのですが「ホントかよ?」と、私は強い疑問をもっています。

星野 旅もリアルがいいと思ってもらえるかな。VRの旅がリアルの旅を邪魔することはないか。心配なんですよね。その対策のひとつとして、私たちは自分たちのサイトで施設や滞在の情報を出し過ぎないようにしようとしているんです。

画像もふくめ滞在の様子を出し過ぎてしまうと、実際にそこへ行ったときの発見や感動がなくなるじゃないですか。

安宅 確かに、ガッカリが増えるかも。

星野 事前情報で予定、計画されていることがその通りに起こり、それで終わりになるというのは非常につまらないことです。発見を残しておくということが大事なんじゃないかと思っているのですが。

事前から組まれた予定をこなすだけの旅なんて、ツマンナイですよね。でも、予定を見せないと旅に出てくれれない。そこが難しい。

事前から組まれた予定をこなすだけの旅なんて、ツマンナイですよね。でも、予定を見せないと旅に出てくれれない。そこが難しい。


安宅 同感です。「意味深な写真」が2、3枚あればいいと思います。かなりクオリティの高い。ただそれが素人の写真しかないと、逆に行く気がなくなっちゃう。そそられない。プロの写真がないと。

星野 でも意味深なのが3枚だと予約は入ってこないでしょうね(笑)。そこまで旅にリスクを冒す人はいないなぁ。

旅大好きの安宅さん。自らの旅体験で一番印象深かったのは「ドロッドロ体験」だとか

旅大好きの安宅さん。自らの旅体験で一番印象深かったのは「ドロッドロ体験」だとか。


安宅 じゃ30枚(笑)。

星野 何枚かはさておき。リアルな場に発見をどう残すかということですね。発見がもう絶景じゃないのかもしれない。絶景は画像になりますからねぇ。味とか。なかなか画像にしにくいものが必要ですね……。

安宅 あとは人との会話でしょうね。コミュニケーションだけは現場でないと成り立ちません。

星野 そうですね。沖縄の竹富島に「星のや竹富島」がありますが、その島の「おばあ」に会えて話せてよかった、というお客様はたくさんいらっしゃいますね。数年後に大阪にも施設ができますが、「大阪のおばちゃん」に会いたくて大阪に行くという人もいるかもしれない。その土地に行かないと会えないわけですものね。そういうコンテンツを伸ばしていかないといけないですね。

安宅 土にまみれるという体験もいいと思いますね。3~4年前に奄美大島に一週間くらいいたことがあるんですが、いちばん憶えているのは、大島紬の泥染めをやったことなんです。本当にドロッドロで(笑)。

星野 やろうと思ってやったというよりも、やるハメになったというところはないですか。

安宅 そうですね大島紬博物館みたいなところに行ったら泥染め体験することになってしまい、気がついたらドロッドロ。

星野 それは結果的に素晴らしい体験で思い出に残っているのでしょうね。ただ、安宅さんはもともと能動的に「ドロッドロ体験」を選んではなかった。「ドロッドロになるために旅に行こう」とは思わないですよね。「ドロッドロになりに行こう!」というのが旅の動機にはならないところが難しいんだよな。

安宅 うーん。そうですね。その楽しさに偶発的に出遭わないといけないわけですよね。

Vol.3へつづく
安宅和人(あたか・かずと)ヤフー株式会社チーフストラテジーオフィサー(CSO)。東京大学大学院生物化学専攻にて修士課程修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。4年半の勤務後、イェール大学脳神経化学プログラムを入学。博士号取得後の2001年末、ポスドクを経て帰国しマッキンゼーに復帰。2008年9月ヤフーへ、COO室長、事業戦略統括本部長を経て2012年7月より現職。事業戦略課題の解決、大型提携案件の推進、市場インサイト部門、ヤフービッグデータレポート、ビッグデータ戦略などを担当。著書に『イシューからはじめよ』(英治出版)、『知性の核心は知覚にある』(ダイヤモンド社)などがある。


記事提供=星野リゾート

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