着てわかる。女性デザイナーならではのシルエットの妙
超透湿防水フィルム「イーベント」を使用したナイロンコート。9万6800円/ヒューベント https://humvent.com
池上 最近、アパレル系の友達と話していると、もう、あんまり服いらないよね。というところに落ち着きます。ファッション記事にふさわしくないかもしれないんですが……(笑)。
櫛部 その話、すごく共感できます。このブランドを立ち上げるときに、どれだけ、長く着ていただけるか、ということを念頭に置きました。私たち、ブランドがシーズンごとに多くの品番を用意しても、個人が選ぶのは数アイテム。残ってしまった服は、セールにかかってしまう。業界が直面している無駄の部分をなるべく排除したいという思いが強かったんです。
池上 ベーシックなウェアが多いのも納得ですね。
櫛部 Eコマースを中心に展開しているのも同様の理由で、やはりこのために店舗を構えて、店舗のために複数の商品を用意する、というビジネスモデルが、今の私の気分には合わないなと。だから、
トレンドも追求していません。池上 ヒューベントは、まず、見た目が格好いい。そして、話を伺うと、あれこれウンチクがある。僕が思う理想のカタチですね。
櫛部 うれしいです!
コート18万7000円/ヒューベント https://humvent.com
池上 このコート素敵ですね。僕が昔モードブランドで働いていた頃の雰囲気があります。
■フムスリバーコート 光沢感としなやかさが最大の特徴。肩がラグランになっており、さまざまな体型の人の肩にフィットする。各18万7000円/ヒューベント https://humvent.com
櫛部 これは梳毛のリバー(シブル)生地を使っています。レディスでは定番化した感のあるリバーコートですが、メンズで作っても面白いなと。
池上 実際、元ネタはどのあたりなんですか?
櫛部 これは、
1940年代のディスパッチライダーコート(モーターサイクル用)をベースにしています。
池上 やっぱり、ネタがしっかりしていますね。でも、とにかくシルエットが美しいなぁ。布帛のドレープ感がいいですね。きっと生地にもこだわってらっしゃるんですよね。
櫛部 これは、
尾州で仕立てたヴィンテージ風の二重織りです。密度を高めて、ハリを出しています。光沢感としなやかさも生まれています。
コート18万7000円、パーカ3万7400円、パンツ5万600円/すべてヒューベント https://humvent.com
櫛部 “纏う・羽織る”という感じを最大限に出したくて、ボタンも付けませんでした。その代わりベルトを付けていて、結んでもシルエットがきれいに出るような作りにしています。
池上 普通のコートだと、僕は手が出てしまうので、
裄丈が割と長めなのもうれしいです。
櫛部 裄丈は割りと長めに設定してしまうんです。男性の“ルーズな袖”感が割と好きなので。
ベルトを結ぶとカッチリとしたクラシカルな印象に。
池上 あれ? このコートって、シーム自体が少ないですね。サイドシームというか、脇下からのシームが……、ポケットのところで終わっています。どういうことですか?
櫛部 そんなところに注目しちゃいます(笑)? まさに
“纏う”ために、なるべくシームを少なくしました。生地量の多いコートなので、特にサイドシームが裾まであると、ごわついてしまうんですよ。
フラップをめくるとステッチが登場。ここに、サイドシームをなくす始末が隠されているとのこと。
池上 だからポケットのところを終点にして始末しているんですね。すごい。確かに裾が柔らかくないと、このコートが表現している“一枚感”が感じにくいですよね。
櫛部 おっしゃるとおりです! 池上さん、何者なんですか(笑)? まさか、このフラップポケットの下の始末が明かされるとは。
池上 それだけ、このコートのシルエットにかける思いが伝わってきます。
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