健全な森は、壊れた海も再生させる
フロンティアジャパン常務取締役 安藤豪太さん●1982年、東京都生まれ。物流サービス事業で創業したフロンティアジャパンがノベルティ事業をスタートさせるタイミングで入社。営業担当として多くの企業に間伐材を活用したノベルティ製作を提案してきた。一方、休日はいい波を求め、千葉の拠点を軸に各地の海へ。長い休みが取れたらサーフトリップに赴く。
今では海・街・森を軽やかに行き交う安藤さんが、森に興味を抱いたそもそもの理由は“保活”にある。
保活とは、子供を預ける保育園を探すために保護者が行う活動のこと。当時の安藤さんの住まいは待機児童の多いエリアにあり、園庭をはじめ施設の整った保育園は少ないうえに入園が難しく、入れたのはマンションの一室のようなところだった。
自身は広々とした園庭付きの保育園に通った記憶がある。その環境との隔たりが大きく「これでは子供は健やかに育たない」と直感した。
そこで安藤さんは屋上保育園を事業にしようと考えた。保育園を新設する土地がないならビルの屋上に建物を造り、緑地化し、園庭を造ればいい。そうすればこの社会問題は解決し、子供たちは楽しく保育園で毎日を過ごせるようになるはずだ。
そう思ってリサーチを始めると、それまでの世には生まれなかったことの理由を知る。ひとつが耐震の問題である。つまり、屋上を緑化するには多くの土を盛らねばならず、その重さを想定して建てられていないビルには耐えることができない。そのうえで建物を増築するとなれば、なおさらだった。
一個人の前にその壁は大きく事業化は断念。だがサーフィンをしていたこともあり環境問題への興味は深まった。そして書物などを貪り読む中で知ったのが、「日本の森は木を切らなければならない」という実情だ。
「木を切らなければならない。そう知ったときは驚きました。豊かな森のためには木を切ってはダメだろうと瞬間的に思ったからです。しかし背景を調べると切るべき理由がわかったのです。
まずは、木を“まびく”ことで土壌は豊かになるということ。木々が密生する状況では地表に太陽光が届かず、光合成により腐葉土が作られるといった自然のサイクルは生まれません。すると森は痩せていってしまうのです」。
痩せた森は地盤が弱く、自然災害を誘発してしまう。近年、台風による影響などから土砂崩れが起き、民家に被害が出るニュースを各地で耳にするが、その一因が痩せた森にあるというのだ。
手入れが行き届かず山が荒れると海も荒れてしまうと安藤さんは言う。
「東日本大震災のときに被災地の海は壊滅的な被害を受けました。カキ、ウニ、ワカメなど海の生き物にも大きな影響が及んだんです。それでも想像以上の短い時間で再生された理由には、豊かな森があったからといわれています。
東北地方の太平洋沿岸は海と山が近く、山に降った雨は森で栄養分を得て、川を通じ海へ流れていきました。そしてその栄養は植物プランクトンや海藻を潤わせ、海洋生物たちにもいい影響を与えることに。こうした循環が機能していたからこそ、海は早々に健全な状態へ戻ることができたのです。
このことは森と海が密接な関係にあることを示していますし、震災後に宮城県南三陸町に建てた弊社の工場のスタッフや地元の人たちは“海と森は恋人”だと言っていました」。
森と海は川を介してつながっている。その恩恵は、水産物という形になって食卓にもたらされる。つまり森が荒れたら川や海も荒れ、水は汚れ、美味しい魚は取れなくなる。
とてもシンプルな話だ。とてもシンプルな話なのだが、しかし日本の森は随分と長くおかしい状態にある。その長さは、戦後から続くほどのものなのだ。
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