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旗を振り続けることで人はついてくる

家業を継いでほしいと言われて育ったわけではなかったが、大学を卒業するころには「最終的に経営者になる」というキャリアプランを描いていた堀田。「(ホリタの前社長である)母親にはところどころでうまく刷り込みをされたかもしれません」と笑う。

新卒では大和証券に入社して営業に従事した。2年目まではなかなか成果が出なかったが、「結果を出すまでは辞めない」と強い意志で努力を重ね、3年目に社長賞を獲得。同時期に結婚をしてプライベートの環境が大きく変わった。家業に入るにはいいタイミングだと判断した。2008年、26歳だった。

福井に帰ると決めたころから、堀田は文具店としての既存のビジネスモデルは早晩限界が来るとみており、「田舎の身近なディズニーランドをつくる」というビジョンを公言していた。しかしMFEの拠点となった現在のホリタ文具店に連なる道がすんなり開けたわけではない。

「入社した08年から現在までの14年間で県内の文具店は3分の1になりました。当社も何度か倒産の危機に直面した。それで31歳のときに、自分に引き継いでほしいと前社長に直訴したんです」と振り返る。

社長に就任後も苦労は続いた。当面の経営を安定させるためには、堀田のビジョンを実現するための投資を一足飛びで最優先にするわけにはいかなかったし、真意を理解してくれる社員も限られていた。

「結果的に離れてしまった社員も少なくなかった。でも、ビジョンを発信し続けた結果、心底共感して一緒に新しいホリタをつくろうという意志をもった社員が何人か定着してくれたんです。そうして数年前に、ようやく現在のホリタの基盤ができました」

新店舗の研修風景。若手人材の活躍が目立つ。

新店舗の研修風景。若手人材の活躍が目立つ。


いまや新卒採用でもパート採用でも、ホリタは地元の人気企業だ。将来的に全国の地方都市に100店舗出店する構想を打ち出しているが、その成否を握るのも人材の質と量。育成手法の確立や体系化は大きな課題だが、不可能ではないとみている。

22年4月にオープンした6店舗目は、子育て中の母親をメインターゲットにした新しいコンセプトの店舗だ。「お母さんの居場所をつくる」取り組みを一歩前に進め、ライフスタイルの提案にも踏み込む。

内装には越前市と福井市の計11の児童館の子どもたちも協力している。堀田がこの新店舗で手応えを感じているのは、「ファンになってくれる人が地域に増えたことで、ホリタを核にしてにぎわいが生まれるような、一種のコミュニティが形成されつつある」ことだ。

店舗ならではの顧客体験を追求した地域密着型の文具店だからこそ、リテールビジネスの新しいスタンダードを提示したり、地域の未来を描くための新しいコミュニティのハブになったりする可能性を秘めている。堀田の志は相当に高いが、旗を掲げ、振り続けてこそ道が開けることはすでに経験済みだ。


ホリタ◎1950年創業。「エンターテインメント文具店」を掲げ、福井県内に6店舗を運営。文房具をはじめ、キッチン用品・生活雑貨、ビジネス用品などを販売するほか知育やアートの子ども向けワークショップも開催。従業員数は約60人。

堀田敏史◎ホリタ代表取締役。1982年、福井県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、大和証券に入社し、営業に従事。2013年、母親が経営する家業のホリタに入社。14年8月より現職。文具店からエンターテインメントカンパニーへの転換を推進している。


本多和幸=文 吉澤健太=写真
Forbes JAPAN=記事提供

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