これからの転職や移住、早坂さんにとって「逃げる」とは?
編集部 現在、好きなことを仕事にされてるということですが、それゆえに大変なこともあると思います。何か困難があったとき、今回のテーマである「逃げる」こともありますか?
早坂さん 毎日、何かしら困難があります。でも、僕しかいないので逃げるわけにはいかないという思いが強くあります。自分の創意工夫次第でなんとかなると思っているので、無い知恵を絞り乗り越えています。
また、息子が成長していく過程で何か困難があったとき、僕は「頑張りなさい」と言わないだろう、と確信してるんですよ。
自分が逃げの連続だったので、逃げることを肯定すると思います。嫌なことにあえて立ち向かう必要はありません。でも、逃げ続けた先にはもう、逃げる場所がなくなってしまいます。行き着く先の居心地が悪ければ、自分で居心地が良いように作り変えていくしかありません。
逃げることには責任が付きまとうというか、絶対そのツケをどこかで払わなきゃいけない。僕が言うのではなくて、彼に身をもって知ってもらえたらいいなと思います。
編集部 〈BOOKNERD〉はどんな場所になっていくのでしょうか。
早坂さん 僕が本を出版してから、単純に本を買いに来るというよりも、人生相談というか転々とした話を聞きに来る人が増えました。本屋や喫茶店って、そういうコミュニケーションや、日常と違った時間が求められていると思うんです。日常から少し離れ、解き放たれたような「逃げ場」になってくれたら嬉しいです。
早坂さんの半生を綴った著書『ぼくにはこれしかなかった。』
編集部 F.I.N は「5年後の未来の定番を探る」というコンセプトのメディアです。早坂さんのようなキャリアの歩み方は定番になっていくと思いますか?
早坂さん すでに「大きな組織の中にいれば安心」という、定年まで勤め上げられる会社は社会には残っていないんじゃないかと思っています。そうすると、我々は自分をブランディングして、生き残っていくスキルを磨いていくしかないと思うんです。
その過程で、今後「逃げる」という選択をする人が増えていくのは明白ですよね。5年後には、逃げ道がたくさんある社会になっていると思います。
例えば、田舎に定住したり、農業をしたりと、資本主義社会の中で生きていくことだけが選択肢ではなくなってきています。つい最近まで東京のIT企業に勤めていたような若者たちが、地域おこし協力隊として過疎地域に移り住んで働いていたりして。
その人たちはすごく楽しそうに働いているので、消費社会の中で生き残っていくっていうことだけが価値観ではないということを教えてくれます。5年後はもっと、この価値観が加速している気がします。
[Profile]早坂 大輔さん●1975年生まれ。サラリーマンを経て、2017年に岩手県盛岡市に新刊・古書店〈BOOKNERD〉を開業。書店経営の傍ら、出版も手がける。主な出版物に、くどうれいん著『わたしを空腹にしないほうがいい 改訂版』、自身の著書に『ぼくにはこれしかなかった。』がある。