三宅氏は「人が使う=着やすい服」であることを前提に、機能性と美しさを共存させることに徹底してこだわった。
コレクションで発表される服の中には、創造的であることを追求するあまり、着やすさや日常性は二の次というケースもある。
だが、三宅氏は「現代の“生活着”」を標榜し、糸からオリジナルで開発し、誰もが着られる服作りを進化させること――アートに近い領域まで昇華されたデザインでありながら、あくまで量産を前提としたもの作りを重視したのである。
感性軸と機能軸が高度なレベルで同居しているデザインであり、その点においても、世界のデザイン業界から注目を浴びた。
「一枚の布」という概念を標榜
「一枚の布」という概念も、三宅氏が標榜したことの1つだ。
二次元の布によって、三次元の身体をどのように覆うのかという問いのもと、“布を身にまとう=服を着る”という行為の原点を探り、人と服の関係を見つめ続けた。その飽くことなき追求が、後世に残る逸品を生み出してきたのである。
代表例の1つが「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE(プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ)」だ。糸から布を織り、そこにプリーツ加工を施して服に仕立てるまでの一連の工程を生み出した。
伸縮性に富み、驚くほど軽いプリーツ地は、しわになりにくく洗濯機で洗えるうえに乾きやすい、畳んで場所を取らないなど、高度な機能性を備えている。
「忙しく活動する現代人のために、軽くて、メンテナンスが簡単で、携帯しやすい服。『プリーツ プリーズ』は私たちが提案する1990年代のジーンズ、Tシャツ、スニーカー感覚のファッション」というメッセージとともに展開され、発売と同時にヒットしたのである。
多くの模倣品が出回るほどの人気を集め、今にいたるまでロングセラーになっている。
また、1998年に立ち上げた「エイポック」では、あらかじめ袋状の布を織りあげる服を生み出した。
デザインした服の色やフォルムをプログラミングして特殊な織り機に入力すると、チューブ状の布が編み上がり、それをカットすると服になる。精緻なコンピュータープログラミングを駆使し、高度なクリエイションを盛り込んだ「一体成型」の服を作ったのだ。
無駄な糸や布を出さない製造工程も含め、未来の服作りのあり方を示す、いわば“発明”として大きな注目を浴びた。
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