新しい生活様式でも生き残るリゾートテレワークのかたち
星野 もうひとつ、これはメンタルヘルスツーリズムにもよくて、ポジティブツーリズムにもなるのではと思うのが、自然の中で、自分の好きな生活ができるリゾートテレワークという提案です。実際に、星のや軽井沢で仕事をしている方もいらっしゃるのですよ。
仕事しながら長期滞在する方も多い「星のや軽井沢」。
小口 意欲や創造性が高まりそうですね。
星野 僕はだいぶ前からそういう生活をしていて、スキー場のリフトの上でも仕事をしていましたからね。テクノロジーがそれを許してくれていて、ニュージーランドに滞在しながら日本の会議に参加できますしね。
各地で働きながらスキーする星野(写真はアルゼンチンのスキー場「Las Lenas」)。
今までは会議室にいかないと失礼だとか何をしてるんだとか言われた常識が、新型コロナウイルスのおかげで変わってしまう可能性があると。
ただ、テレワーク用の部屋は必要になってくると思います。家にいて、妻が僕より大きな声で会議に参加していますから(笑)、大きな部屋じゃなくて小さな個室が必要になってきているのですよ。
そういう意味では、部屋以外に、リモート会議ができる個室のような、声が外にもれない電話ボックスみたいなものが必要になってくるかもしれません。
小口 星野リゾートのスタッフは、お客さんに積極的に関わっていくことをされているので、長期滞在の方にとっては非常に良いのではないかと思います。
星野 はい。顧客に合わせ、滞在の仕方に合わせて家具の移動をしようとか。食事も長期滞在の方には毎日同じところで食べるのは退屈なので、バリエーションを加える工夫とか。
もう一つ、重要なのは価格帯ですよね。どうしたら長期滞在をしていただけるような魅力的な価格設定をできるかも社内で議論をしています。
小口 いいですね。
星野 3密回避などは新型コロナウイルスが収束したら無くなるのではと思っているのですが、旅行先でのテレワークは、これをきっかけに残るんじゃないかと思ってます。観光需要を伸ばせるんじゃないかと。
仕事の前後で温泉入ったり、夕焼けを見てもらったりといろんなアクティビティができるから、毎日仕事をして、毎日ストレスを解消することもできるのです。仕事環境としても最高だと思うんですよ。
「星のや竹富島」南風(ぱいかじ)ワーケーション滞在。沖縄の原風景が残る竹富島にテレワークしながら1ヶ月暮らすように滞在するプラン。
小口 それはメンタルヘルスにもとても良さそうです。
星野 ありがとうございました。今の時代にこそ必要な旅の発想がどんどん生まれそうです。
[Profile]小口孝司●立教大学 現代心理学部 教授。博士(社会学)。東京大学大学院 社会学研究科博士課程修了後、昭和女子大学、千葉大学などを経て、現職。パデュー大学客員研究員、ジェームスクック大学客員教授などを務める。Journal of Travel & Tourism Marketingなどの国際学術誌の編集者、Asia Pacific Tourism Associationの日本代表等を務めている。専門は観光心理学、社会心理学、産業·組織心理学。主な著書に『観光の社会心理学』(北大路書房)、『よくわかる社会心理学』(ナツメ社)、『仕事のスキル―自分を活かし、職場を変える―』(北大路書房)等があり、『影響力の武器』(誠信書房)などの翻訳にも関わっている。
森 綾=構成