大学1年の冬、「虫を食べる」とカミングアウト
──成長するにつれて、虫や生き物への思いはどのように変わっていったのでしょうか。 虫は、分かりやすく嫌われていますよね。こんなに面白い生き物たちがいて、これだけ豊かな世界があるのに、それがあまりにも理解されていない。
最初から嫌われてしまっていることで、それが伝わる機会も閉ざされてしまっていることがもったいないと思うようになりました。
その思いは、年齢が上がっていくうちに次第に強くなっていきました。ただその一方で、「虫を食べる」などと言おうものなら学校でいじめられるのではないかという感覚もあって、ひた隠しにしてきました。
だから、昆虫食のお店をやろうなんて発想は1ミリもなかったんです。
最も大きな転換点は、大学に入ったとき。ちょうどその頃、国連食糧農業機関(FAO)が、今後訪れると予測される食糧難に対して、昆虫食が一つの解決策になり得るというレポートを発表したんです。
これが世界的に昆虫食が注目されるようになった大きなきっかけのひとつと言われていますが、僕にとっては国連が仲間になってくれたような感覚でした。
当時は「このまま好きなものを隠し続けて生きていても人生後悔するだろう」、という思いも募っていたので、国連に背中を押される形で大学1年生の冬に、初めて周囲に昆虫食をカミングアウトしたんです。
──「地球少年・篠原祐太」の誕生ですね。当初、周囲の反応はどうでしたか。 最初はTwitterで、国連の記事を引用するような形で「昆虫は面白いし、食べても美味しい。とても魅力的な生き物なんです」というふわっとした投稿をしました。
そして次に「今日はこんな虫を採って食べました」という投稿をしたのですが、それに対しては「不快だからやめてほしい」といったネガティブな反応が圧倒的に多くて。最初はその一言一言にすごく傷ついていましたね。
でも、僕のツイートに興味を持ってくれる人もごく一部いて、そんな方々とリアルで会い、一緒に山に行ったんです。そのときに、人生で初めて自分の本当に好きなものを人と共有できた喜びを感じました。その感覚は今でも忘れないし、今お店をやっていてお客さんに喜んでもらえたときの嬉しさに通じる僕の原点です。
そういった体験を繰り返すうち、興味を持ってくれる人はその虫が「美味しいかどうか」に関心があり、美味しいものであればあるほど分かりやすく感動することに気づきました。それで、虫の面白さを伝えるためには、少しでも美味しい状態で食べてもらう方がいいと思い、「料理ができる人がいたら一緒にやりたい」と思うようになりました。
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