30年止まっていた針を一気に進めた
ホカはスポーツ業界でキャリアを積んだフランス人のジャン・リュック・ディアードとニコラ・マーモッドが創業した。いまから10年余り前の2009年のことだ。
アドベンチャーレースのシリアスランナーだったふたりは十年一日のごとくいっかな進歩がみられなかったスニーカーに忸怩たる思いがあった。当時は故障を知らないランナーを探すほうが難しいくらいだった。調べてみれば、停滞期間は10年どころか30年に及んだ。
ホカのアイデアはまさに天啓のように降って湧いたという。それはトレーニングで訪れたニュージーランドでのことだった。ふたりはその地への感謝の意を込めて、ブランド名をホカ オネオネとした。ホカ オネオネは先住民のマオリ族の言葉で“Time to fly(さぁ、飛ぼう!)”の意となる。
プロトタイプ。創業者のジャン・リュック・ディアードとニコラ・マーモッドが試行錯誤して作り上げた。
勘どころは肉厚なミッドソールとメタロッカーと名づけられたコンストラクションにある。
前者は“マシュマロのような履き心地”と形容されるEVAをたっぷり充填した構造、後者は高低差を小さくしたゆりかご状の構造をいう。ゆりかご状の構造には、足運びをスムーズなものにする効果が期待できる。
まさにマシュマロの上を走っているかのような柔らかなクッション性をそなえるミッドソール。
構造そのものを変えてしまったメタロッカーには驚くほかないが、薄いソールが正義だった時代であることを考えれば、底まわりにボリュームをもたせるという発想にも脱帽せざるを得ない。
もちろんアドベンチャーレースを実際に走ってきたからこそのひらめきなのだけれど、常識を疑ってかかる天才肌の観察眼がなければたどり着けなかっただろう。
ゆりかごのようにボトム・ラインをカーブさせることでスムーズな着地、蹴り出しを実現したメタロッカー。前へ前へと足が出る感覚はまさに車輪を彷彿とさせる。
とくに公表はされていないが、目(足)利きによれば充填されたEVAの質も明らかに違うという。
バケットシート型のミッドソール、アクティブフットフレームもギアとしての性能を高めるのに一役買っている。いわゆる立体的なカップインソールで、足裏を包み込むようにフィットしてくれる。このコンストラクションもホカが嚆矢といっていい存在だ。
足を包み込むようにフォールドするアクティブフットフレーム。
ホカの進化への挑戦はとどまることを知らない。新たに開発されたテクノロジーを列挙すれば、プロフライミッドソール、J-フレームテクノロジー、カーボンファイバープレート、ハッブルヒール……といった具合にやはりエポックメーキングになりうるものが続々と生まれている。
ホカ オネオネは言い得て妙なネーミングだった。まさに飛ぶように走れるのみならず、その脚力を存分に発揮して開発現場の30年のブランクも一足飛びで埋めたのである。
ブランディング戦略の一環として、昨年11月にはブランド名をホカ オネオネからホカへと改めた(通称)。グローバルに展開するブランドであれば、わかりやすさは必要不可欠である。
そして今年は4つのオリンピックで活躍した福士加代子さんがアンバサダーに決まった。新生ホカ オネオネ=ホカの本当の快進撃は、これから始まる。
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