堀米の優勝を予感させてくれた一瞬の出来事
歓喜に沸く白井の前を横切る堀米。背中の文字と相まって、周囲の状況に左右されない彼の強靭なメンタルが感じ取れる一瞬だ。
そんな状況であれば、通常の人間ならば動揺が見えてもおかしくない。しかし、彼は冷静だった。
脅威のトリックで会場を沸かし、仲間達と喜び合う白井を横目に、淡々と自身のランへ向け準備を進めるために白井の前を横切る姿を筆者はキャッチしていたのだ。しかも背中には「Don’t bother me anymore(俺は好きなことをやってるから、俺に構わないでくれ)」とプリントされたTシャツ。
この瞬間に関していえば好きなことというより、自分のやるべきことといったニュアンスの方が正しいと思うが、コンテスト終了後のセレクト中にこの写真を見つけた瞬間、自分には彼が勝ち取った優勝という結果と妙にシンクロしているように感じた。
なぜならスケートボードのコンテストは他人と競う競技でありながらも、結局は自分との戦いだからだ。
“自分が練習してきたニュートリックをメイクできれば絶対に勝てる” そうやって彼はどんな状況に置かれようとも自らを客観的かつ冷静に捉えて、今すべきことを明確にしているのだろう。
思えば東京五輪もランでは2本とも失敗して、同じような極限状態に追い込まれていた。しかしベストトリックでの見事なまでの逆転劇を演じている。
決めるべき時に決める並外れた精神力
練習中に2度身体を打ちつけたノーリーバックサイド180スイッチスミスグラインドを本番では完璧にメイク。
そして、やはりというべきなのか、ここでも五輪王者は強かった。
1本目は全トリッククリーンメイクとはならなかったものの、ラストには練習中にスラムして身体を強打したノーリーバックサイド180スイッチスミスグラインド(ボードの前方を弾いて背中側に回転し、レールをまたぎ越してボードを斜めに掛けるトリック)を完璧にメイクして見せ、首位に躍り出る。
そして2本目はさらに観客の度肝を抜く、今までコンテストで見せたことのない、スイッチトレフリップ フロントサイドリップスライドを完璧にメイク。これは逆足を使って空中で板を縦横360度回し、レールをまたぎながら滑り降りる超大技で、五輪後に取り組んだニュートリック。
それを最後の最後に繰り出して、見事成功させてしまうところに彼の千両役者っぷりが見て取れる、「一番最後に出した方が盛り上がるので」と、五輪では不在だった観客の盛り上げ方も超一流だった堀米雄斗。優勝が決まった瞬間の安堵を浮かべた表情は、今もしっかりと自分の脳裏に焼き付いている。
いつまでも変わらない頂点に立つ者の人柄
表彰台のトップに立ち、万感の想いの堀米雄斗。左は銀メダルの池田大暉、右は銅メダルの白井空良。
自分は今回久しぶりに彼と対面することができたのだが、所々に見せるその仕草は自分が昔一緒に仕事した純粋なスケボー少年の頃の印象となんら変わらず、心のどこかで安心した気持ちになったことも最後に付け加えさせていただきたい。
そうやって彼は今後も前人未到の道を切り開いていくのだろう。日本人が表彰台を独占というストーリーの裏には、このような間近で現場を見たものにしかわからない人間ドラマが存在していた。
自身のランを終えた直後。ホッとした気持ちと同時に仕事をやり遂げた充実感も感じる表情だ。
続いて女子ストリート。
ここではブラジルのスーパースター、ライッサ・レアウが序盤から優位に立ち、X Gamesでは自身初の金メダルを獲得、シルバーメダルは富山県出身の東京五輪銅メダリスト、中山楓奈と前評判が高かったライダーは前評判通りの強さを見せてするという形で幕を閉じたのだが、それでも見所は随所にあった。
女子ストリートの表彰台に上がった3名。左から中山楓奈、ライッサ・レアウ、クロエ・コベル。
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