自分にバイクを合わせていく
デザインの職人として、仕事でも合理性からデザインを導いていくのと同様に、余計な装飾を付け足すのは好みではないそう。
小野さんのカスタムは、あくまで自分が中心だ。
パーツをより美しいものに交換したり、本質的ではない不要なものは省いたり……。時にはレースに出て、そのフィードバックを元に、自分にバイクを合わせていく繰り返しなのだ。
「例えばレクサスに乗るのであればメルセデスのほうが、という意見もあると思いますが、ハイエースにはきっと外国のどの車も敵わない。それと同じで、トライアンフやドゥカティも敵わないカブの良さって絶対にあるんですよ。
速く走るためではなく、老若男女、誰にでも乗りやすく、軽量でありながら恐ろしく頑丈。だからこそトライアラーとしてのポテンシャルもあり、少々ガタがきはじめている自分の体でも思い通りに動かせるんです」。
昨夏に2mほどの岩の上から転落してしまい、小野さん自身はふくらはぎの筋挫傷など大ダメージを負ったが、カブはリアフェンダーが割れたのみ。その合理的でタフな設計に改めて感心。
そう考えると、カスタムのベースとして、カブほど打ってつけのモデルってないのかも。ハードルもそこまで高くなく、間口も広い。でもその世界は、突き詰めればとてつもなく深い。
あくまで今の自分を中心に、とことんバイクを満喫している小野さん。取材後、颯爽と走り去る後ろ姿が、最高に楽しげだった。