株式会社ユーグレナ 代表執行役員CEO 永田暁彦●1982年生まれ。サステイナブルな取り組みを行うバイオベンチャー企業、ユーグレナの代表執行役員CEO。
今注目のビジネスパーソンに、人生を楽しむためのヒントを聞くインタビュー!
伺ったのは株式会社ユーグレナ 代表執行役員CEO永田暁彦さん。経営者のリアルなFUN-TIME事情に迫る。
自然に影響され続けている生活は24時間心地いい
「尻には人生が表れると言いますからね(笑)。調子がいいときはグッと上がっているものです」。そう言いながら、永田は臀部をポンポンと叩き場を和ませる。
適度に筋肉のついたしなやかな体躯は毎朝行うという運動の賜物。190cmに到達しようかという背丈とも相まってそのカラダつきは迫力すら感じた。
そんな永田に自身のFUN-TIMEについて訊くと「24時間楽しいです」と、何ともパワフルな返答が。だがこれには理由がある。言葉を選びながら整然と穏やかに語る。
「経営者に期待するFUN-TIMEって、平日はバリバリ東京で働いて週末は海や山などで過ごすようなことを想像すると思います。
しかし僕は東京を離れて生活し、自然の中に生活も仕事もスポーツやアクティビティもあるという感覚です。書斎からは広い空が見えますし、外に出れば草木の匂いも感じられます。
24時間、生活のすべてが自然に影響され続けながら過ごしているという状況がすごく心地いいです」。
ここ数年、良く着ているのがパタゴニアのアイテム。この日も全身そうだった。昔は興味があったファッションも最近はそれほどそういう気持ちにはならないという。
「ファッション雑誌の方に言うべきなのかわからないのですが」と苦笑いを浮かべつつ、心の内を明かす。
「結果的に自然に近づくことと東京から離れることが同じ行動になっていますが、僕の場合、原理原則が違います。
自然に近づくのは大好きな自然の中にいたいからですが、東京から離れた暮らしをするのは、マーケティングされている社会から脱出するという意味がある。
人って知らなきゃ欲しくないのに知るとなぜか欲しくなる。こうなると自分で本当に欲しているかわからなくなるじゃないですか」。
「あ、先日もそうだ」と言いつつ、過去のエピソードを披露してくれた。
「付き添いでとあるブランドのショップに行ったときに、財布が欲しくなって買っちゃったんです。これも行かなかったら買わなかったわけですよ(笑)。
そういうわけで、マーケティングで溢れている社会から抜け出したら、今まで欲しいと思っていたものがそう思わなくなって、結果的に普段着るのはパタゴニアの服だけです。
パタゴニアを選んだ理由として環境負荷の低いものを着るということもありますが、それよりも必要以上にものを欲しがらないことのほうがサステイナブルでシンプルな生活だと思うからです」。
ただ、昔は違った。
「今はこんなことを言っていますが、大学時代はN.ハリウッドが大好きでよく着ていました。当時の僕にはそれは誰かに与えられた欲ではなく本当に欲しいものだったんです。
年を取りさまざまな経験をし、得たいものをある程度得られるようになり、そして何よりマーケティングの仕事をするようになってから、欲しいものがマーケティングで与えられている欲なのか、本当に欲しいと思っているものなのかがわからなくなって。
与えられている欲と、自分の内面から湧き上がる欲を選択することで、今やっていることがすべて自分の欲求から生まれているものだと思えたのです」。
永田にとって、ユーグレナでの仕事は自身の内面から湧き上がる欲によるもの。
「長年、華道をしているのですが華道って『道』じゃないですか。今は若くして儲けて早期リタイアなどをする人がいますが、自分は華道のように何十年もかけて達人になりたいタイプ。
今の仕事は道のりこそ長いですが、着実に積み上がって続ける楽しさがあります。
弊社ではバングラデシュの貧困支援に取り組んでいるのですが、いつも思うのは日本人はとてつもなく報われているということ。でもそんな日本でいろいろな機会をもらう中、自分が人生をかけた結果の対象が何であるかということは、仕事をするうえで大切だと思っています。
僕は環境問題や貧困問題にすごく関心があると思われますが、なるべく世の中も自分も“GOOD”でありたいというだけで、個別のテーマにこだわりがあるわけではありません。
純粋に、社会的テーマに自分の能力を使いたいと思っているだけなのです。今、ユーグレナという会社で戦うべきテーマが環境で、人生をかけるに値する社会的課題だと考えています」。
今年40歳になるが、これからも変化を楽しむことを忘れない。
「20代の頃と比べて、カラダをメンテナンスする時間が増えました。それは翌朝、心地いい状態で目覚めたいとか、万全の状態でいいパフォーマンスを発揮したいという欲求がそうさせています。
健康に生きたいという欲は20〜30代の頃はまったくなかったことなので40、50代ともっと変化していくのだと思うと楽しみです。ファッションも昔みたいにN.ハリウッドのようなアイテムを買っている可能性だってありますから(笑)」。
もし違う人生ならやってみたいことがあるという。華道や仕事と同じく、一朝一夕ではなし得ない夢だ。永田は破顔しながら子供のように語り出す。
「雪山にひとりで登りたいんです。漫画『岳』や『孤高の人』の影響なのですがずっとやってみたいと思っていて、いつかチャレンジしたいです。ただ現在の立場上、リスクが大きいのでなかなか難しいとは思いますが……」。
インタビューを終えると「こんなに手間をかけていただき、ありがとうございます」と深々とお辞儀をする。
次の会議へと向かうその刹那、憧れのスターはいるか訊いた。すると少し考え「サッカー選手の三浦知良さんです」と答えて続ける。
「三浦さんのように、肉体的な衰えによって一線を離れるという世の中の風潮に反発して、行動で示している人たちですね。
自分が年齢を重ねても人生が幸せになれるという気持ちが湧く人は素敵だなと思います。それこそ僕には、いつかひとりで雪山に登るという夢がありますから」。
そう忙しなく答えると、永田はマイボトルとノートPCを抱え、足早に去っていった。自分が選択している欲の中で生きることが「24時間常に楽しい」と語る男の後ろ姿は見えないエネルギーに満ち溢れている。
グッと上がったアスリートのような格好いい尻こそがそれを雄弁に物語っていた。
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