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クオーツのロールスロイスと呼ぶにふさわしい中身の話


安藤 機械的にはどうですか?

広田 グランドセイコーはロレックスと似ていて、今ではステイタスのある時計だけれど、もともとは実用時計の最高峰を目指していた。実用時計ってゼンマイの力を強くして、針を太くして時間を読み取りやすくして、部品が傷んだら交換する。かたや、高級時計は力を弱くして長持ちさせるというのが一般的な考え方なんです。けれどグランドセイコーは面白くて、実用時計としての機能性はあるのに、構造や考え方は高級時計なんですよ。メンテナンスのたびに部品を交換する必要はほとんどないんですね。実は相当変わった時計だと思います、これ。



安藤 ゼンマイの動力、ほかと同じくらいなんだ。

広田 はい、実は。

安藤 でも、グランドセイコーのクオーツに搭載されている9Fムーブメントは、一般のクオーツと比べて強い動力を持っているから太い針を動かせますよね。

広田 そう、クオーツのロールスロイスと呼ぶにふさわしいすばらしいムーブメントです。でも機械式やスプリングドライブは、ほかと比べて決して強くはしていない。だから長持ちする。これこそがグランドセイコーの知られざる魅力だと思っています。しかも人の手がいっぱい入ってるわけじゃないですか。日本は賃金が安いからこの価格帯で収まってますけど、スイス製だったらとてもじゃないけど無理。



安藤 スイスは人件費高いですからね。大卒初任給で見ても世界ナンバーワン。金額にして日本の3倍以上だと言われています。さらに言うと、スイスでは時計の技術者というのはかなりのステイタスのある職業だから、当然賃金も高い。

広田 つまり製品レベルに対して、割安感がすごいんです。だから世界中の人間が買うようになっている。

安藤 あるアンティークウォッチ・ディーラーに言われて見てみたんですけど、グランドセイコーをインスタで検索すると、カタカナよりも圧倒的に英語表記が多いんですよ。それだけ海外の人の注目が集まっている。実際、そのディーラーのところにも最近、海外からの問い合わせが急激に増えているらしいです。

安藤夏樹(写真右)●1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリーマガジンの編集長を経て、現在はフリーに。「SIHH」や「バーゼルワールド」を毎年取材し、常に自分の買うべき時計を探す。口癖は「散財王に俺はなる!」。


広田 そう、海外のコレクターが買うようになったのは間違いない。ちゃんと作っているのがこれまで以上に評価されつつあります。日本のフラッグシップがこの値段で買えるというのは、お買い得感あると思うし。

安藤 国内でも相変わらず売れてますよね。とくに震災を経て、“日本のものづくり”を再評価する機運が高まってからは、若い世代にも確実に浸透している気がします。

広田 かつては、「おじさんっぽい」と敬遠する人も少なくなかったドメスティックブランドだけど、若い世代の人たちにはドメブラに関しての抵抗感ってまったくないですよね。むしろ、舶来ものよりも新しさを感じる人もいるようです。確かに、今の40代〜50代はごぞって舶来ものを選んできたわけでしょう。それを見て育った若者からすれば、そっちのほうが古くさく感じてしまうのかもしれない。


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