OCEANS

SHARE

実はデニムはもともと色が薄かった!?

デニムを着用する我々にとって、色味は超がつくほど重要要素。しかし、アイテムによってインディゴ染めであったり、藍染めであったりと、実にさまざまである。

果たしてその違いは? 言い方が違うだけでそもそも一緒なのでは?

そんな素朴な疑問に、「一緒だけど違う(笑)」となんともひねりの効いた回答。果たしてそのココロは……。



「とどのつまり、インディゴ染めは藍染めでもあります。では結局、藍染めとは何かというと、葉っぱを発酵させながら色を抽出していき、布に浸透させていく、いわゆる“草木染め”ですね。もともと日本では着物をはじめさまざまものに取り入れられ、藍の文化がすでに定着していました。

もっともわかりやすいのは、それこそカイハラ。彼らは元来、絣(かすり)の生地の専門店で、そこが最大の強みですから。そして、これまで日本は藍染めを継続してきましたが、アメリカやヨーロッパでは方針転換をします」。

欧米において、デニムは結局のところ作業着にほかならない。ビジネスの拡大に伴って大量生産の必要性が生まれると、大量に染色できる化学的なインディゴ染料が開発された。



「おそらく、1920〜1930年代にはもう化学染料が使われていました。天然染料は同じものを何度も使えないんですよ。デニムを濃くするためには、一旦使用した染料は捨てないといけないので。その染料を作るのも大変で、染めるのもひと苦労なわけです。それで合成インディゴが生まれました。

今では、海外のジーンズで天然の藍を使っているものなんてほとんどありません。藍染めとインディゴ染めは、いわば天然なのか人工なのかが差になってきます」。

ここで本澤さんの私物デニムを見てみよう。これは、貴重なリーバイスレッドの初期作品である。





「これは天然藍です。リーバイスレッドはヨーロッパ企画のイメージが強いですが、実はこれ、日本の生地なんです。しかも、日本綿布さんのもので、ヘンプを混ぜています。当時は徳島の本藍の職人さんが染めていました。

その生地をスペインで縫製していたからヨーロッパのイメージが強いのですが、結局、欠点も多かったんです。なにせヘンプ混ですから、そう綺麗にはいかない。次シーズンからは、失敗しても損失の少ない合成インディゴ生地に変わっていきます」。

では、もう天然藍染めのデニムが生まれる可能性は消滅したのかというと、そうでもないらしい。

「まだ、国内でも天然藍染め専門店は残っています。でも、ハンドメイドでやるので、誰もが気軽に手を出せる値段ではないんですよ。高価というのもありますが、天然だとなかなか色を濃くできないんです」。



「デニムは濃紺のイメージで、加工により色を落としていると思いがちですけど、実際はデニムって色が薄かったんです。濃い色というのはこういうデニム(写真上)の色のことを言いまして、僕たちの標準色にもなっています。

もっと色を濃くするため、インディゴ染料に黒い染料を入れることもある。もしくは、8回染めを16回染めにすることも。そうやって、今までデニムの色を濃くしてきたんですよ」。

天然も人工も一長一短。それよりも……

天然染めには、さらに大きな特徴がある。それは“焼けやすい”ということだ。



「ジーンズは酸化によって色が変化していきます。空気に触れる、水に濡れる……都心部だと車もたくさん走っていますから、排気ガスにも触れやすい。そうすると色が変わっていきます。

そして、人工よりも天然の方が変化が起きやすいんですね。“焼けやすい”と僕らはいいますけど、合成と天然だったら天然の方が焼けやすい。黄色くなってくるんです。アジが出やすいとも言いますが……」。

だから今となっては、藍染めだけでデニム作りをするのは難しい、と本澤さんは言う。

「何を持って良しとするかは、昔と今ではやっぱり変わってきています。でも、それもまたデニムの面白いところなんだと思います」。

左は、今は亡きコーンミルズ社のホワイトオーク工場で作られた、天然染料によるデニム生地で仕上げられた一本。右は、化学染料で染められたレッドカードのワンウォッシュデニム。

左は、今はなきコーンミルズ社のホワイトオーク工場で作られた、天然染料によるデニム生地で仕上げられた一本。右は、化学染料で染められたレッドカード トーキョーのワンウォッシュデニム。


「つい昔のモノサシで見がちですけど、今となっては一概には何が良いかは言えません。日本人が『濃い方がいい』と思っているのは、リーバイスのヴィンテージの色が濃かったからじゃないかと思います。デニム=’55年ぐらいのリーバイスのヴィンテージのイメージが強いのでしょう。

でも、’44年ぐらいまで実は濃くありません。『55』や『66』がリーバイスの傑作と言われていますが、多分、’66年の501が日本人は大好きなんで、あのあたりはやはり色が濃い。その影響で、日本のデニム生地を作る人たちがどんどん濃くしていったんだと思います」。



では、本澤さんが思い描く理想のデニム色とは?

「難しいところですが、個人的にはそこまで“藍”にこだわらなくてもいいのかなと思いますね。ジーンズの色は多様化してきていますし、実際、今のトレンドはブラックですから。ここまでブラックデニムが強くなった時代もないと思いますよ。

僕の知人が、とある企画で20代の若者100人にアンケートを実施したのですが、『ジーンズは何色をイメージしますか?』との質問に、ほとんどの子が黒と答えたらしいですよ」。

我々には想像し難いほどのジェネレーションギャップである。



「この前の展示会では、足を運んでくれた若い男の子たちのグループに見てもらったところ、ブラックやアイボリーが好評でした。ブルージーンズについて聞くと、『インディゴな~……』って苦笑いしてましたよ(笑)。

でも、僕はそれでいいと思っています。天然か人工か、藍か黒かということではなく、デニムにおいて無数の選択肢が日本にある。もう世界最強のマーケットなんじゃないかと思います。それが、日本デニムの素晴らしさを表しているともいえるのではないでしょうか」。
 
藍染めとインディゴ染めは、同じように見えて違いがある。しかしここで大切なのは、日本のデニムには、無数の選択肢が用意されているということだ。

この幸運な環境に感謝しながら、今日もデニムを楽しみ尽くそう。

「世界最高峰! 日本デニムの今」とは……
「デニムと言えばアメリカ」。かつてのヴィンテージブームを経験した人たちはそんな先入観を持ちがち。しかし今、世界を見てみると、プロはこう口を揃える。「デニムと言えば日本」。なんで? 方々から探る、世界最高峰、日本デニムの今。
上に戻る


伊藤恵一=写真 菊地 亮=取材・文

SHARE

次の記事を読み込んでいます。