デザイナーとして感じる、ジャガー・ルクルトへのシンパシー
「ケースを反転させるときの、カチッというシャープな金属音が心地良い」と尾花さん。多くの人がレベルソにハマる要素のひとつ。
「ドレスウォッチって一種の趣味というか、圧倒的にファッションなものだと思うんです。男性の数少ない装飾品だし、だからこそ、多くの人にとって、とても大切なものとなる」。
そのように、男にとっての時計の役割について話したあと、こう続けた。
「昔、自分のコレクションでもアール・デコをテーマにした時があったけど、ルクルトの時計はアール・デコの影響を色濃く反映していて、デザイン面では気になる点がたくさんありますね」。
そう言う尾花さんが手にするのは、2021年に誕生90周年を迎えた不朽の名作レベルソ。
角形時計の金字塔であるとともに、反転式ケースという独創性が時代を超越して支持される。
そのユニークな構造の始まりが、人馬一体となって駆け巡るポロ競技でガラス面を保護するためだったという話はあまりに有名だ。
裏ダイヤルには第二時間帯表示があり、旅の時計としても便利に使える。
「レベルソは角形の反転式ケースというアイデンティティを崩さずに、時代の中で少しずつ進化していっている。そういうデザインの変遷は、見ていて面白いですよね。
その哲学は、最近の自分の服作りにも共通するところがある。ずっと着たいと思う服に関しては、せっかく作って良かったものを、そのシーズンで終わらせるというのが嫌になってきたんです。もう少し突き詰めたらもっと良くなると思ったら、その先までとことん考えるようにしています」。
有名な黄金比率を踏襲したこのタイムピースは、このコレクションの基軸であり象徴とも言えるアールデコスタイルの優美さを体現している。
事実、N.ハリウッドで展開されるアンダーウエアのラインナップなども、商品化されなかったものも含めて相当実験を繰り返しているという。
“シンプル”という言葉で片付けてしまうには、あまりに紆余曲折を経たうえで創り上げられる姿。
ジャガー・ルクルトの時計に宿る魅力とは、その挑戦の歴史を小さなケースにさりげなく閉じ込めていることなのかもしれない。
3/3