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しなり、整流、3D…… 東京パラリンピックに向けて進化するレーサー開発
FUN! the TOKYO 2020
いよいよ来年に迫った東京オリンピック・パラリンピック。何かと “遊びざかり”な37.5歳は、 この一大イベントを思い切り楽しむべき。 競技を観るのもするのも、主な拠点となる東京を遊ぶのも、 存分に。2020年の東京を……Let’s have FUN!
>前回の続き 前回、パラリンピックの陸上競技で使用される競技用車いす「レーサー」を開発する会社、オーエックスエンジニアリングの技術者である飯星龍一さんに教えてもらった、レーサー開発に着手した当時のストーリー。
レーサーの研究はその後も続き、そして来年、東京パラリンピックを迎える。
現在のレーサー開発の中心である同社の小澤 徹さんは、ちょうど飯星さんが「おむすび」と呼ばれる独自のフレームを採用したレーサーを開発していた頃に入社し、現在は2020年の東京パラリンピックで使用される予定のレーサーの研究開発に取り組んでいる。
小澤 徹さん1969年生まれ、千葉県出身。高校時代には自転車で日本一周。愛用の自転車ブランドはロードレーサーならイタリアのコルナゴ。
今回は小澤さんに、東京パラリンピックへ向けた抱負や現在のレーサーについて語っていただこう。
メカニックのレースにゴールはない
——小澤さんはどういったきっかけでオーエックスエンジニアリングに入社したのでしょうか。 もともと自転車が好きで、高校時代が自転車で日本一周などをしていました。その後、いくつか仕事をしたのですが、物作りの仕事をしたくなって。それで、ちょうどオーエックスエンジニアリングで技術者の募集があったので応募したんです。好きだった自転車と車いす作りの仕事は似ているんじゃないかな、と思って(笑)。
——レーサー開発に携わって印象深かったことは? 入社したとき、バスケットボール用の車いすを見て、車いすの車輪にキャンバー(タイヤの倒れ角度)がついているのが衝撃的でした。
車もキャンバーがついているとスポーツやレース用に見えるじゃないですか。あとは、例えばバイクはどこにエンジンを置くかが重要で、どの位置にエンジンを置くといちばん速く走れるか、といった点を追求します。車いすも同じで、エンジンを人に置き換えるわけですね。肩がどこの位置にくるのがいちばんか、とか。そういった考え方をまず飯星から教わったのが印象深いですね。
——現在のレーサー開発のポイントを教えてください。 これまでのフレームの剛性や軽量化に加え、今はフレームのしなりや振動具合までこだわっています。レーサーを漕ぐとき、フレームが押された状態になるのですが、しなりや振動のタイミングで次の動作に移りやすいかどうかが変わってくる。それをフレームの形状や素材の組み合わせで研究開発していますね。軽量化にしても、新素材が出てくればまだ改良の余地があります。
——ゴールのない戦いですね。 最近は選手がどのポジションのときにいちばん出力が出ているかを動作解析するなど、新しいデータサイエンスの活用も増えています。弊社では競技用車いすを福祉機器という感覚でとらえている人は少ないんじゃないですか(笑)。日常用車いすは福祉機器の目線も大事ですが、競技用、勝負の世界となると、本当に改良のゴールはありません。
——東京パラリンピックへの抱負は? 日本人選手の方はもちろん、海外の選手の期待にも応えていきたいですね。海外選手の話を聞くと、多くの選手が我々の長所を「細かさ」と答えてくれます。例えばアメリカってサイズの規格がインチ単位じゃないですか。日本はメートルなので、1cmや1mm単位で体に合わせたり調整できる。
——今後のレーサー開発はどのように進化していくでしょうか。 次は「形状」がポイントになるかもしれません。整流効果(レーサーの周囲の空気の流れを推進性が上がるように整えること)ですね。ただ、整流効果を上げすぎると、選手が乗っているシートフレームに空気がこもることがあるんです。そうなると夏のマラソンなどでは、選手のコンディションに影響が出る可能性もある。そのあたりの検証が必要だと考えています。
あと、実は先日、3Dプリンタを導入したんですよ。これからの時代、溶接ではなく3Dプリンタで車いすを作ることもあり得る。海外の選手が日本に来なくても、オンラインのVRで採寸して3Dプリンタで作る、なんて未来がすぐそこまで来ているかもしれませんね。
レーサーの開発が、モータースポーツさながらであるということが理解いただけただろうか?パラリンピックでは選手はもちろん、彼らを支えるメカニックの戦いにも、ぜひ注目したい。
田澤健一郎=取材・文