「買う」ではなく「どうやって作ろう」に変わった
君津へ移住したことで、平井さんは何を得たのか。大きく変わったのは、「100%消費者ではなくなったこと」だという。
「東京にいたころは、欲しいものがあれば、まず『買う』という選択肢を取っていました。しかし、ここでは、まず『どうやって作ろうかな』『どこまで作れるかな』というところから始まるんです」。
平井さんは今、土と藁を混ぜて作る日干しレンガを積み上げ、薪ストーブの周囲をデザインしようと計画しているそうだ。それを少年のように、楽しそうに話すのである。
とはいえ、移住生活には苦労もあるに違いない。たとえば、20代から一緒に生活してきた妻は、大都会の新宿から君津へ移住することに抵抗はなかったのか。そう尋ねると、奥さんは、
「彼はすごく働き者なんですが、飽きやすいんです(笑)。じつは、新宿の家を買うまでも何度も引っ越している。越して2、3年経つと、もう『次はどこに住もうかな』って考えている。私はひとつの場所に定住したい派なので、『また引っ越すの』って。でも、ここへ来てからは飽きを感じるヒマもないみたい。これでやっとひとつの場所に定住できると、ホッとしています(笑)」(平井さんの妻・千明さん)。
と苦笑しながら答えた。
ここでは仕事以外にも、地元の消防団の訓練、田んぼの作業、家庭菜園、集落の草刈り、DIY……と、飽きるヒマもないほどやりたいことがある。そう真っ直ぐに言える夫婦の姿が素直にうらやましい。
平井さんの「作りたいものリスト」は現在、膨大な数になっている。「製作するための工具代や材料費が大変(笑)。全部作り終えるのは、20年後かもしれません」と笑う。
《逃げ》た先で見つけた、仕事と暮らし。そのどちらも、今の平井さんにとってかけがえのないものとなっている。
藤野ゆり(清談社)=取材・文