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組織の価値観にとらわれてしまうおそろしさ


高校卒業後、飲食店や不動産業など、さまざまな仕事を経験して実感したのは、自分はひとりでコツコツやるタイプだということ。そこで、24歳のときに建築の専門学校に入学した。

「建築士には、部屋にこもって作業するイメージがあったので、自分に向いているかなって。実際はそんなことばかりではないんですけどね(笑)」。

飲食業時代に出会った妻とは、このころに結婚した。学び直しと結婚生活を同時に始めたのだから、その暮らしは「安定している」とはいえないものだった。

「昼間はアルバイト、夜は専門学校で勉強する日々を2年間続けました。卒業後もすぐには就職できなくて……。27歳のとき、なんと建設会社の設計部にもぐり込むことができたんです」。

しかし、建設会社の仕事は「忙殺」という言葉がぴったりだったという。勤務地である半蔵門から離れた場所に住んでいたため、朝5時に家を出て、深夜1時に帰宅する毎日。さすがに体力の限界を感じ、30歳のときに会社に通いやすい新宿御苑の中古マンションを購入した。

住む場所を変えたことで、生活は安定した。そんなとき、平井さんの意識を大きく変える出来事が起きた。



「2011年、東日本大震災が起こったとき、社内にいた僕は、命の危険を感じて逃げようとしました。ところが、僕以外は誰も逃げようとしない。机から動かないんです。それを見て『自分も逃げないほうがいいのかな?』と立ち止まってしまった。でも、後で振り返ったときに、組織の価値観にとらわれて個人の決断ができなくなるって、すごく怖いことだなと感じたんです」。

組織に所属することで正常な判断ができなくなるくらいなら、ひとりで仕事をしよう。独立を決意した平井さんは会社を辞め、知り合いのオフィスの一角で仲間とともに建築事務所を始めた。34歳の再スタートだった。



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