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価値があるのは会社で自分ではない。32歳で移住を決断




大学卒業後に大手広告代理店に就職し、当時はまだ主流ではなかったデジタルコンテンツのプランニングを担当した。新しい分野なので裁量が大きく、ひとりでさまざまなサービスを立ち上げるなど、やりがいを感じた。

その一方、広告代理店の仕事は一過性の消費で、長期的な視点を持つものとは言いがたかった。津田さんのなかで、徐々に仕事に対する疑問が大きくなっていく。もっと持続性のある仕事がしたいと思った。そして、10年勤めた広告代理店から友人の誘いで超大手電器メーカーに転職する。32歳のときのことだ。

「働き方を変える第一歩だ」と新しい仕事にチャレンジしていたが、大手メーカーは部署ごとの縦割り組織になっているため、根回しのスキルが重視され、社内調整ばかりに時間を取られる。それは自分が「組織の歯車」になっているように感じられた。

社会に価値を認められているのは会社で、自分自身はなにも持っていないのではないか──。

そんな悩みを抱えていたころ、一冊の本に出会う。それがリンダ・グラットンの世界的なベストセラーである『ワーク・シフト』だ。

「『ワーク・シフト』は、あらゆる角度から近未来の働き方を予測した本で、さまざまな選択肢が提示されています。そのなかでも、僕が強く惹かれたのが『リモートワーク』や『プロジェクト型の仕事』でした」。

リモートワークとは、オフィスから離れ、コワーキングスペースなどを活用して働くワークスタイルで、テレワークと呼ばれるもの。プロジェクト型とは、会社に所属して仕事をするのではなく、プロジェクトごとにスキルを持った人間が集まり、終われば解散という働き方だ。

「クリエイティブな職種は今後、プロジェクト型の働き方が増え、社会とつながる実感や充実感も増すのではないか、と。そんなワークスタイルがあることを知り、『ああ、僕が求めているのはこういう働き方だ』と思ったんです」。

それが実現するなら都会での生活にこだわる必要はない。そう思ったとき、津田さんの頭に真っ先に浮かんだのが、八ヶ岳の雄大な風景だったのだ。





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