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佐内正史が撮って食べた、人生最後に選んだ新宿「魯珈」のカレーに見た銀河
もし、今日が人生“最後の晩餐”だとしたら、アナタは何をテーブルに運んでもらうだろうか? 最後と知らず「アレが食べられてれば……」と後悔するなんてまっぴらゴメン。食いしん坊オッサンたちよ、教えてください。「人生最後の日、どこの何が食べたいですか?」
「死ぬ前に、男と一緒にメシは食べたくないよね。だから、男が作ってる店はとりあえず除いたわけ。それでパッと浮かんだのがスパイスクイーンの店だったんだよね」と語るのは佐内正史さん。自身の写真集レーベルも持ち、ミスターチルドレンや斉藤和義などのPVを撮り、たくさんの作品を発表する写真家である。
そんな佐内さんが最後の晩餐として指名したのが東京・大久保にある「スパイシーカレー 魯珈」のカレーだ。
雑居ビルの奥まった場所にある魯珈のカウンター席に座り、佐内さんはこんなことを語ってくれた。「都会とか人生をバタバタと羽ばたいている途中にさ、ふと止まる“止まり木”のような店なんだよ。鳥たちはここで休んでまた羽ばたいていくんだけど。僕にとってはそんなの感じお店なんだよね」。
そんな“止まり木”で佐内さんが注文したのが、いつもオーダーする「ろかプレート」。魯肉飯(るうろうはん)という豚バラ煮込みご飯と、好みのカレーのあいがけができるひと皿で、佐内さんはチキン、ラム、野菜、限定の4種から一番辛口なラムカレーをチョイス。
そして、およそ10分でカレーが到着。見た目も香りも間違いなく美味しそう。さっそくスプーンを手に……持つかと思いきや佐内さん、抱えたのは愛機のペンタックス67。ファインダーを覗き込み、最後の晩餐「ろかプレート」を撮影。シャッターを2回切り、ガシャっという大きなシャッター音がすると「撮れたね。カレーが大きく撮れました」と何だかうれしそう。
では、「タラレバ最後の晩餐」実食へ。カメラをスプーンに持ち替え、最初のひと口を食べて「美味い」とつぶやく佐内さん。
スパイスがばっちり効いたルーは確かに辛いが、旨みと深みが素晴らしい。新鮮かつ上質なスパイスがいつでも手に入る大久保(=東京の“アジアンタウン”)という地の利を活かした「スパイシーカレー 魯珈」ならではの味わいだ。
新鮮なスパイスが口の中で弾けてなんとも言えない味と刺激を与えてくれる。これを楽しむために佐内さんは、最初はかき混ぜずにルーとライスだけで食べるのが流儀だとか。するとこのように「あー、死ねる」。
それを堪能したら、いろいろ混ぜて食べ始める。ラム肉は神奈川県相模原にある信頼の佐藤精肉店から仕入れた生肉を一晩マリネしたもの。こちらもまた味わい深く、スパイシーなカレーとよく合うのだ。
そして副菜の玉ねぎのアチャール、マスタードオイル高菜などを口に運ぶと複雑な味わいが広がり、佐内さんの最新写真集のタイトルよろしく、口の中は“銀河”となる。
あきたこまちのコシのある食感、毎日食べても飽きない“オイシー・ヘルシー・スパイシー”なカレー。ときどき「うまいわ」とつぶやく以外、何も言わずに黙々と食べ続ける佐内さん。食べ終わったときには半ば放心状態で「ごちそうさまでした」。
食後に佐内さんは、食事の本質は “外”にあると話し始めた。「食事って自分以外のもの、自分以外が作ったものを体に入れるわけじゃない? そうすることでエネルギーをもらうんだよね。外の世界に欲しいものがあるんだよ」と佐内節が炸裂すると、本業である写真もそうだと続ける。
「みんなは写真を撮るとき、撮りたいものを枠の中に入れようとするでしょ? でも、僕は撮りたいものがどうやったら写真の枠の外に出ていくかを考える。それが欲しくて『銀河』っていう写真集を作ったんだよね」。そう、佐内さんの最新刊『銀河』は、自分以外の“外の視点”がポイントで、自分なら選ばないけど友達の◯◯だったらこっちを選ぶかな、とセレクトしたさまざまな写真が256ページに詰まっているのだ。こちらはまさに写真の銀河である。
写真を撮ることで外と交わり、「スパイシーカレー 魯珈」の美味しいカレーによる外からのエネルギーでパワーを満たしている佐内さん。今年50歳、ですが、ホントの“最後の晩餐”はまだまだ先になりそうだ。
スパイシーカレー 魯珈03-3367-7111住所:東京都新宿区百人町1-24-7 シュミネビル 1F定休日:土・日曜、祝日営業時間:11:00~16:00(火・木曜は11:00~15:00、17:00~20:00)※時季により変更あり 佐内正史=写真(カレー)
取材・文
ジョー横溝(じょーよこみぞ)●音楽から社会ネタ、落語に都市伝説まで。興味の守備範囲が幅広く、職業もラジオDJ、構成作家、物書き、インタビュアーetc.と超多彩な50歳。ラジオのレギュラー番組として「The Dave Fromm Show」(interFM897)、著書に『FREE TOKYO〜フリー(無料)で楽しむ東京ガイド100 』など多数。