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高田漣が人生最後に食べたい、築地「布恒更科」の海老天もり
もし、今日が人生“最後の晩餐”だとしたら、アナタは何をテーブルに運んでもらうだろうか? 最後と知らず「アレが食べられてれば……」と後悔するなんてまっぴらゴメン。食いしん坊オッサンたちよ、教えてください。「人生最後の日、どこの何が食べたいですか?」
今回は伝説的ミュージシャン・高田渡を父に持つ、ギタリストでありシンガーソングライターの高田漣さん。“最後の晩餐”の場所として選んだのは、東京・築地にある蕎麦屋「布恒更科」である。
約束の時間に店の暖簾をくぐると、漣さんは既に席に着いて女将さんと楽しく談笑していた。話題は、漣さんにこの店を教えてくれた今は亡き編集者、川勝正幸さんのこと。漣さんにとってここは川勝さんとの想い出の場所でもあるのだ。そんな彼がテーブルにあるメニューを開き、注文したのは「海老天もり」。
実は、川勝さんが好きだったカレー南蛮(1650円)とも迷ったとのこと。もともと蕎麦屋でカレー南蛮を頼む川勝さんを「粋だなぁ」と感じて、事実、この店でいちばん食べているのもカレー南蛮。しかし、「最後の晩餐なのである種のお祝いです(笑)。天ぷらって子供の頃からご馳走だったんですよね」。そして、待つこと7〜8分。運ばれてきたのがこちらである。
布恒更科の蕎麦は、茨城の契約農家の蕎麦粉を使った外二八(蕎麦粉10:つなぎ2)の手打ち蕎麦でモチモチ、歯ごたえがしっかりしているのが特徴だ。麺つゆはたまり醤油を使った濃厚な味わいで、漣さんはそれを蕎麦猪口にすくったあと、蕎麦をさっそくひと掴み。
モチモチな蕎麦をズズっと。太めの蕎麦は濃厚なつゆとよく絡み、とっても美味。食べ応えも満点で、箸が止まらなくなる漣さん。「つゆも蕎麦もしっかりしていて美味しいなぁ」と連発。
蕎麦ざるが1/3程度になった頃、海老天に手を伸ばす。ここでツウだと感じさせたのが、もともと麺つゆが入っていた大きな碗を天ぷら用とし、蕎麦用と分けて使っていた点。これも川勝さんから教わった流儀だそうで、天ぷらの油が蕎麦の味を邪魔しないようにするためなんだとか。確かにこれなら、最後までベストコンディションな蕎麦を食べられる。
実は、漣さんがここで蕎麦を食べるときは必ずビールか日本酒がお供するのだが、「海老天がつまみで、シメに蕎麦を食べて。一品で二度の美味しさを楽しめる。それもあって麺つゆを分けるんです。呑んべいにはオススメですよ」と、酒好きな漣さんらしいこだわりを披露。
蕎麦と天ぷらを交互に食べ、いよいよ完食。となれば当然、蕎麦湯をすするわけで。布恒更科の濃厚な蕎麦湯を、蕎麦用としていた麺つゆに注ぎ、飲んでいると、「最後の晩餐として蕎麦を食べると、本当に最後に口に入れるものは蕎麦湯になるんだ(笑)。でも、蕎麦湯を飲んで天国に行くのはかなり粋ですよね」。
蕎麦湯を飲みながら、しばらく食談義。漣さんは外食するときは「ここに来たらこの一品」というのが決まっていて、それ以外のものを食べることはほとんどないとか。そんな話をしたあと、「音楽も食事も定番、トラディショナルなものが好きなんですね」と言い、「食も音楽も同じ思考回路を通っている気がするなぁ」と話す漣さん。
さて、蕎麦湯もなくなってきたので、そろそろおいとまの時間。最後にこれからの活動について聞くと、「ただギターを弾きに行くのはやめて、自分の作品をもっと残していきたい」とのこと。2017年10月、4年ぶりにリリースされたアルバム『ナイトライダーズ・ブルース』は、日常に潜むブルースな瞬間を味わい深く切り取って高い評価を受け、「日本レコード大賞」で優秀アルバム賞を取った。いよいよ本領発揮といったところだろうか。
築地という東京の食文化の中心に、高田漣さんが見つけた至極の蕎麦。多くの食通を唸らせる布恒更科の「海老天もり」は、個性的でありながら多くの人に愛される、漣さんの音楽ともリンクする。音食同源ナリ。
築地 布恒更科03-3545-8170住所:東京都中央区築地2-15-20定休日:日曜・祝日営業時間:11:00~15:00(14:40LO)、17:00~21:00(20:40LO)※土曜は11:00~15:00(14:40LO)
取材・文
ジョー横溝(じょーよこみぞ)●音楽から社会ネタ、落語に都市伝説まで。興味の守備範囲が幅広く、職業もラジオDJ、構成作家、物書き、インタビュアーetc.と超多彩な50歳。ラジオのレギュラー番組として「The Dave Fromm Show」(interFM897)、著書に『FREE TOKYO〜フリー(無料)で楽しむ東京ガイド100 』など多数。