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『ストレンジャー・ザン・パラダイス』



旅の道具は『ダージリン急行』のように、自宅から持っていくものだけとは限らない。身軽に出発して、旅先で必要なものを調達するという手もある。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年公開)では、いかさまポーカーなどをしながら、ニューヨークでその日暮らしをしているウィリー(ジョン・ルーリー)と相棒のエディ(リチャード・エドソン)が、思いつきのような旅に出る。

すべてに脱力系の彼ららしく、旅に出るからといって特別な用意は何もしない。いつもと同じヨレッとした服に中折れ帽という格好だが、これがなかなかキマっていて、本人でないと出せないラフなカッコ良さ。ふたりとも本業がミュージシャンで、やはり独特な雰囲気を醸し出しているのだ。



さて、ウィリーとエディが借りたクルマで極寒のクリーブランドに向かったのは、ウィリーの従妹のエヴァを訪ねるため。彼女は一年前にニューヨークのウィリーの部屋で10日間過ごしたあと、クリーブランドに移り住んでいたのだ。

ウィリー、エディ、エヴァの3人の間には、恋愛感情のようなドラマティックなものは何も起こらない。奇妙な友情が横たわっているだけだ。3人は寒さ以外何もないクリーブランドから、フロリダに向かう。確たる目的もなく、ただ暖かい土地を目指して。

そしてフロリダに着いて最初にウィリーが買ったのが、サングラス。エヴァとエディにそのサングラスを手渡すウィリーが、珍しくうれしそうに「これで観光客だ」と言う。いつもと変わらぬ出で立ちの彼らが、フロリダの空気を満喫した瞬間であった。

石川三千花=文・絵

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