江戸川を描き込んだ点に注目してほしいのはなぜか。東京メトロの地図には隅田川が記載されているが、単に路線を載せるだけでなく、川や湖などが記載されると、位置関係がわかりやすくなるからだ。
ロンドンやパリの地下鉄路線図にもテムズ川、セーヌ川といった川が記載されている。「路線図を見る際には、手がかりがあったほうが、何を基点に見たらよいかがわかるようになります」(大森さん)。
大森さんが大学で学んだのは「ビジュアル・コミュニケーション・デザイン」。わかりにくい情報をデザインの力でわかりやすく伝える手法、具体的には電車で迷わずに目的地に向かえる路線図の作り方である。
路線図から学べることは多い
この観点から、大森さんが「うまくできていた」と考える路線図は、麦焼酎「いいちこ」のポスターなどで知られるアートディレクターの河北秀也氏が1972年にデザインした「東京地下鉄路線図」。路線や駅名の角度をそろえたり、細かい部分を大きめに表示したりするなど、全体のバランスが取れていたという。
路線図だけでなく、駅のサイン表示の見やすさも重要だ。とくに首都圏や関西のターミナル駅では、乗り入れる鉄道会社ごとにサイン表示が異なるため、迷うことも少なくない。
これらを統一したほうがわかりやすいのように思えるが、大森さんは、「そろえることも大事だが、会社ごとにサイン表示が違うというのも1つの“情報”です」と話す。サイン表示が違うことが、自分がどの鉄道会社のエリアにいるのかを知る手がかりになるからだ。
タイガースや寅さんの路線図はあくまで遊びだが、そこから学べることは少なくない。何を削り、何を加えれば、わかりやすく情報を伝えることができるのか。路線図を見ることでコミュニケーションデザインの基本を学ぶことができるのだ。
大坂 直樹:東洋経済 記者
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