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40代にして、初めて人生の意味を問う


タップダンサーとして世界的名声を確固たるものにした今、熊谷和徳は40代をどう生きるのか?

熊谷さん

「40代になった今、これまでの勢いや野望みたいなものを超えて、『人生の意味』を考えるんです。

20代は何も考えずに、それこそバイトして、空いている時間はがむしゃらにタップして前に進むだけみたいな。そして30代になるとそれが形になってくる。そうして40代になった今、野望みたいなものを超えて、『人生の意味』を考えるんです。意味がないと、空っぽになってしまう気がする。ただお金を稼ぐとか有名になるとかに意味を見出せればいいですけど、自分の人生の意味という点ではそれは少し遠いんです。今はもっと、自分の魂が充実できるかっていうところをすごく大事にしたいですね」。

「自分の魂が充実する」とは、どういうことだろう。確かに、40代にもなれば給料や評判で得られる「心地良さ、快適さ」とは違った「幸福の形」を意識するようになる。今の暮らしが相当に不満なわけではない。ただがむしゃらに生きた30年を経て、人生は踊り場のような停滞期を迎える。そこから上に上がるのか、惰性に進むのか、すべては自分次第だ。

ただこれまで「道」と思って先へ先へと前を向いてきたが、なんとなく「その先」が見えるようになる一方で、今度は自分の胸の裡、自分の中に目がいくのかもしれない。これまで進んできた自分自身の中身が空虚になりかけていることに気付き、焦る。

熊谷さん

「今まで自分が影響を受けてきたエンタテイナー、マイケルやプリンス、グレゴリー・ハインズのように、時代を築いてきた人たちがこの10数年の間にどんどんいなくなっていきました。

背中を追ってきた人たちがいなくなった今、今度は僕らが新たな価値観を創造していかなくてはいけない。それは僕らのようなパフォーマーでなくても、世代交代というところでは多くの人たちが感じる難しさではないでしょうか。新しい価値観はどんどん変わっていきます。

これからの時代を考えたときに自分が大事にしていきたいことは、自分の魂を成長させていきたいということです。時代に流されることなくテクニックやマテリアル的なことを超えて、人間としてどう成長していくか。

タップを通して、自分がどれだけ成長して、自信を持ってこの先の次の人生を駆け抜けていけるかというところでは、常に自分も模索しています。そして一番大切なことは、その瞬間瞬間をどれだけ楽しめるかということですね」。

タップダンス Photo by Makoto Ebi


好きなことで生きていくのは決して楽な道のりではない。好きなことである程度の成功を収めたら、その栄光の中で人生を“置きに行く”という選択だってあり得る。少なくとも彼には、その権利があるはずだ。しかし熊谷は、タップダンスに対する求道心を枯れさせない。

「40代というのはアーティストとしては分かれ道で、ここからビジネスとして、割りきった仕事の形を引き受けていく人たちもいっぱいいると思います。評論家や権威的な立場になって行く人も多い年齢です。

でもやはり自分は、タップを始めた頃の初期衝動を一番大切にしていきたいんです。踊ることを思いっきり楽しみ続けたい。そして信じることを表現し続けていきたい。

それは、一寸先の闇を模索し続けて行くことなので、なかなか精神的にはきついものではあるけれども。そこに僕の人生の意味がある気がするんですよね」。

熊谷さん

迷う40代の人生の選択。そこにも熊谷和徳にとっての必然はあった。やっぱり彼は「タップが好き」なのだ。


熊谷さん熊谷 和徳
1977年、仙台市生まれ。タップダンサー。「KAZ TAP STUDIO」主宰。19歳で渡米後、独自で活動。世界中のメディアにも度々取り上げられ、「日本のグレゴリー・ハインズ」と評される。米ダンスマガジンにおいて「世界で観るべきダンサー25人」に選ばれた。

 


[公演情報]
日野皓正スーパーライブ2019
開催日:8月7日(水)
会場:Bunkamura オーチャードホール
www.min-on.or.jp/play/detail_172129_.html

小島マサヒロ=写真 島崎昭光=取材・文 



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