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視覚障害者柔道で、一躍トップ選手へ


視覚障害者柔道は、健常者が行う柔道とは異なり、お互いに組んだ状態から試合がスタートする。このため、一本で決まる試合が9割を超えるという。そんな視覚障害者柔道の魅力について、初瀬は次のように語る。

「組み手争いがないんです。お互いが組んだ状態で試合が始まるので、いつ投げるか、いつ投げられるかわかりません。リードしていてもいつ逆転されるかわからないし、逆にリードを許していても、残り1秒で大逆転ということもありえます。最後の最後まで勝負がわからないスリリングな競技と言えるでしょう」。

視覚障害者柔道の魅力にとりつかれた初瀬は、3カ月間練習に取り組んだのちに、視覚障害者柔道の全日本大会に挑む。すると見事に、オール一本勝ちで優勝を果たす。そしてこの優勝によって、翌年6月にフランスで開かれる世界選手権、11月にマレーシアで開かれるフェスピック競技大会(現在のアジアパラ競技大会)の日本代表に内定した。



「昨日までまったく予定がなくて、何していいかわからなかったのに、急に“来年の世界大会の日本代表に入れるから合宿に来てね”って言われて。目が悪くなって初めて目標ができ、僕のカレンダーの予定が埋まったんです」。

それまで初瀬の目の前に広がっていた暗闇に、強い光が差し込んだ。初瀬を取り巻く環境が一変した瞬間だった。



翌年の6月に行われた世界大会では1回戦で敗れたが、続く11月のフェスピックでは金メダルを獲得。これにより、2008年の北京パラリンピックの出場権も獲得した。10万人の観客が見守る中で、開会式の入場行進をしたときの様子をこう語る。

「すごかったですよ。まるで拍手の雨の中にいるような感覚。鳥肌が立ちました。目が見えなくなって良かったなんて思うことはほとんどないですけど、パラリンピックに出場できたことはそのひとつだと思います。心の底から障害者である自分を肯定できた瞬間でした」。



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