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初瀬と柔道の出合い


初瀬は幼い頃に両親が離婚し、母子家庭の中で育てられた。小学校の低学年までは本が大好きな少年だったが、1年生のときに地元のスポーツクラブに入り、さまざまなスポーツを体験する。だが、どのスポーツも決して得意ではなかったという。



初瀬が初めて武道の世界に触れたのが小学校5年生のときだった。仲の良い友達が始めたからという理由で、空手を始めることにした。だが、友達の付き合いで始めただけの空手に、初瀬が夢中になることはなかった。試合ではいつも負けてばかりだったが、悔しさを感じることもなかったという。

初瀬にとっての最初の転機は、中学校1年生のとき。入学した中学校に、空手部がなかったため、「同じ武道」という理由だけで柔道部に入部したのだ。同学年の仲間は皆、柔道の未経験者。初瀬自身も柔道は未経験だったが、武道を経験していたという理由で、キャプテンを任されることに。このとき初めて「俺がやらねば」という自覚が芽生えた。

柔道を始めた初瀬は、練習を重ねるにつれて、柔道が自分の肌にあっているんじゃないかと感じるようになった。空手のときはまったく感じられなかった「強くなっている」という感覚を、柔道では味わうことができたのだ。先輩たちと手を合わせ、自らの成長を確かめながら真剣に柔道に打ち込むようになる。空手のときとは異なり、柔道で試合に負ければ悔しく、試合に勝てば嬉しいと素直に感じることができたそうだ。

柔道を始めた頃は経験不足もあり、試合ではなかなか結果が出なかったが、高校生になった頃から徐々にその頭角を現す。高校2年生のときに初めて長崎県の県大会で3位になると、さらに高校3年生でも県大会3位、そして国体の強化選手にも選ばれるほどに、初瀬は力をつけていた。それでも初瀬は当時の自分の実力を、客観的に見ていた。

「僕は1980年生まれで、(アテネ五輪100kg超級金メダルを獲得した)鈴木桂治選手らと同じ世代なんですよ。本当にツワモノがたくさんいました。長崎県大会で優勝した選手ですら、全国大会では1回戦で負けてしまう。オリンピックに出るなんて、想像もつかないくらい大変なことだとわかっていました」。





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