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2019.07.06

あそぶ

柔道との出合いがすべての始まり。視力を失った男が絶望と向き合った日々

高層ビル内にあるオフィスの会議室に通されてから2〜3分が経った頃だろうか、その男は柔和な笑みを浮かべながらゆっくりとこちらに歩いてきた。隣には2人の付き添いがいる。

人懐っこい笑顔を浮かべながら、その男は筆者に対して、椅子に座るように促した。

「どうも、どうも。今日は暑いですねぇ」。

鈴木純平=撮影


筆者の目の前で笑顔を見せるこの男は、2008年の北京パラリンピック柔道90kg級に出場した障害者アスリート、初瀬勇輔(38歳)だ。初瀬は現在、視覚障害者柔道で2020年東京パラリンピックへの出場を目指し、日々練習に励んでいる。

直後に国際大会の予選を兼ねた大事な試合を控えているにも関わらず、初瀬の表情は明るかった。試合に向けた調整は順調に進んでいたのだろう。

そして迎えた2019年6月16日(日)。東京都文京区にある講道館で行われた「IBSA柔道アジアオセアニア選手権大会 日本代表候補選手選考試合」。この大会に90kg級で出場した初瀬は、初戦こそ背負い投げで一本勝ちを納めたが、準決勝で延長戦の末に敗退してしまう。僅かな差で国際大会への切符を手にすることができなかった初瀬は、翌日に自身のSNSでこう綴った。

「2020年の東京パラリンピック出場の可能性は、まだ少し残っていますので、背水の陣で挑戦を続けます。これからも応援よろしくお願いします」。



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