なぜ「フランク&アイリーン」のシャツは毎日着たくなるのか
LA生まれのシャツブランド、フランク&アイリーン。シャツに付くタグには英語で「1947年創立」と記されているが、実は2009年にスタートしたブランドである。それはなぜか。シャツに込めた想いとそのストーリーが、デザイナー本人の口から語られる。
フランク&アイリーンとは?
2009年にLAで設立されたシャツブランド。アイルランド人の祖父母が着ていたシャツにヒントを得たシンプルなデザインと、イタリアの最高級生地が生み出す着心地の良さが特徴。立体的なパターンによる美しいシルエットにも定評がある。’14年5月に世界初の旗艦店を東京・千駄ヶ谷にオープン。’16年にシャツ作りのノウハウを活かしたカットソーライン「ティー ラブ」(レディスのみ)がスタート。’17年には阪急うめだ本店に日本2号店をオープンした。
「あるシャツ生地と出合って、運命が変わりました」
現在のLAファッションを語るとき、フランク&アイリーンの名は外せない。イタリアメイドの上質な生地が生み出す快適な着心地と上品なデザインが、かの地のセレブリティやファッション関係者たちを虜にしている。来日した創業者兼デザイナーのオードリー・マクローリン氏に、ブランドの歩みについてたずねた。
「設立は2009年。ブランド名にはアイルランドの小さな村に住んでいた祖父母の名前(※1)をつけました。祖父は郵便局員で、マジックが得意な優しい人。祖母は料理上手で気立てのいい女性でした。ふたりはいつもきちんとしたシンプルなシャツを着て、愛情豊かに仲良く暮らしていました。ブランドを立ち上げようと思ったとき、真っ先にふたりの姿が浮かんだんです」。
彼女はもともとカリフォルニアの大学で工学と法律を学んだのち、カシミヤ製品を扱う企業に勤めていた。そんな彼女が服飾デザイナーになることを決意した理由は、イタリアの某有名生地メーカーとの出合いにあった。
「ある日、会社にあったそのメーカーのバンチブック(生地の見本帳)を何げなくめくってみたんです。とても大きな衝撃を受けました。鮮やかな発色と滑らかな肌触り、そして上品な光沢。柄も豊富なバリエーションがありました。『こんな生地を使って、毎日着られるシャツを作ったら……』と考えるとワクワクが止まらず、すぐにメーカーにアプローチしました。メーカーの名前?ごめんなさい、企業秘密なので公にはできないんです」。
それは、100年を優に超える歴史を持ち、あまたのビッグメゾンに生地を供給するイタリア有数のメーカーである。にもかかわらず、彼女のアイデアを聞いた担当者はすぐにLAまで駆けつけてくれたそうだ。
「最高級の生地を使いながらも、デザインはシンプル&ベーシック。そして西海岸のリラックスした雰囲気を演出するために、シルエットはいくぶんゆったりめに設定して、洗いざらしたような風合いに仕上げています」。
フランク&アイリーンが有名になるのに時間はかからなかった。最初は彼女の友人のスタイリストが気に入って、毎日のように着ていたんだとか。やがて口コミでファッション関係者にどんどん広まっていった。その後オプラ・ウィンフリーやメーガン・マークル(※2)らが愛用したことで、一躍メジャーブランドの仲間入りを果たした。
’19年の今年は、設立10周年を記念したヘリテージコレクションを発表。これはアーカイブから、彼女自身が思い入れのあるモデルを復刻した限定コレクションである。今後はTシャツやカットソーにも力を注いでいくという。
「毎日お洒落はしたいけど、あれこれ面倒なのはLAのスタイルではありません。でもこのシャツがあれば、さらっと一枚羽織るだけで、品とリラックス感を兼ね備えた“LAスタイル”が完成するんです。フランク&アイリーンのシャツが、カリフォルニアの気候のように皆さんの毎日を気持ち良いものにしてくれること。これがシャツ作りに込める私の想いです」。
※1 祖父母の名前
ブランド名が祖父母の名前で、そのロゴの下に「EST 1947」の英数字が入る。これはブランドの創業年ではなく、祖父母が結婚した年。家族への深い想いを感じさせるエピソードである。
※2 オプラ・ウィンフリーやメーガン・マークル
前者は2011年まで放送されていたアメリカの人気テレビ番組、『オプラ・ウィンフリー・ショー』の司会者。後者は元女優で、現在は英国王室サセックス公爵ヘンリー王子の夫人として知られる。
押条良太(押条事務所)=文 加瀬友重=編集