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■その日、木村の打席は2球で終わった


JPLは、クリケットが盛んな国々の選手も多数参加する、日本で行われる最高峰リーグである。だがプロではない。彼らの多くは日本で仕事をしながらプレーをしている。

ここで一切目立たないようであれば、木村昇吾のプロクリケット選手への転身も、まったく成功とは言えない。日本を圧倒し、本場のプロリーグでの需要がないようでは、「チーム昇吾」の存在価値はない。

シーズン開幕前、ワイヴァーンズクリケットクラブの一員として、日本学生選抜とのゲームに参加した木村を見に行った。4月末のことだ。場所は、東京・昭島市の昭和公園陸上競技場。前述のように、クリケットの本格的なフィールドは130m×140mの楕円である。それをなんとかかんとか、陸上のフィールドで代用する。

その不十分感たるや! 野球場を無理やり長方形のスペースに収めるほど、無理がある。そして非常に牧歌的。週末のレジャーとして、大学のサークルの試合を見に来たような空気感なのである。

この時、私たちはまだ木村と話をしていなかった。だから、その和やかな試合の佇まいに違和感を覚えずにいられなかった。果たしてここから本当に海外のプロリーグでのプレーを目指せるのか。

クリケットは攻守交代が1度しかない。1チームがまず攻撃権を失うまで攻め続ける。相手チームはその間ずっと守り続ける。いわば非常に長い1回の表裏だけで終わる。打者はアウトにならない限り、延々と打席に立ち続けることができる。大まかにいうと、アウトになるのは打球をダイレクトにキャッチされた時。そして、打者の背後にあるウィケットにボールを当てられた時。

2時間以上の守備の後、打席に入った木村はこの日、2球目のボールをウィケットに当てられた。木村には悪いけれど、青空の下、清々しい芝生の上でボウラーの放った球が、木の柱に命中し、乾いた音とともに上に乗った板を落とす瞬間、とてつもないカタルシスがある。サッカーのゴールシーンにも似た、これがクリケットを見る面白さのひとつなのかもしれないと、少しわかる。



だが、打者としての木村の仕事はそれだけで終了。この日、彼にはそこから挽回するチャンスはない。

「こんなところで2球で終わってしまうのが、僕の今の立ち位置です。オレは元プロ野球選手だ! ちゃんと当てればたくさん点が取れるんだ! とか言っても何の意味もない。泣こうがわめこうが、それがその日の僕のすべて。2球でアウトになったとき、悔しくて悔しくて眠れませんでした。早く練習がしたくてしたくて、試合に出たくて出たくて……」





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