■ゼロからのスタートで目指す世界
目標は、海外のプロリーグでプレーすること。これは“夢”ではない。荒唐無稽な男のロマンではないのだ。具体的に、そしてできるだけ早く達成すべきミッションなのである。もっとシンプルに言うと、木村にも家族にも生活がある。
「今は『チーム昇吾』を組んでもらって、これで活動しています。チームの中心に置く目標が“木村昇吾がクリケットの魅力を発信し、海外で活躍する”というもの。そこには、クリケットというスポーツを日本に普及させる目的もあります。実行するのは僕です。日本クリケット協会事務局長の宮地直樹さんが競技側の面倒を見てくれて、僕を推薦してくれた平尾(類)くんがメディア対応、さらに、スポーツチームのプロモーションなども手掛けるコンサルタントの川内健吾さんの4人によるチームで活動方針を立てて、今、具体的に動いているんです」。
チームが具体化したのは今年1月半ば。宮地と川内が協力して、木村の海外チーム視察のセッティングなどを仕込み、平尾はさまざまな媒体の取材窓口を担当している。
日本のクリケットの競技人口は、4000人に満たないという。日本クリケット協会は栃木県佐野市を基盤に、商工会議所や地元企業と協力してこの町をクリケットの町にしようとしている。今や市の地域活性化プロジェクトとして、国の地方創生推進交付金事業に採択されている。渡良瀬川の河川敷にはいくつものクリケット競技場ができ、今年に入って閉鎖された高校を利用した国際規格のグラウンドも生まれた。日本のリーグ戦の大半の試合や日本代表合宿は栃木県佐野市で行われている。ちなみに東京都では昭島市が盛んだ。
「昭島市の中学校で体育の授業にクリケットを採用するよう推進しているようです。でも、何もないところからのスタートなんですよ。佐野の国際規格のグラウンド……ご覧になって“これが?”って思いませんでした? 正直、僕はそう思いました。だってプロ野球のグラウンドを知ってるから。とにかく土壌が違いすぎるんです」。
「裾野を広げるも何も、そもそも裾野がない。それを広めようとする人の努力って、プロ野球とはまったく違います。何かしようとするとすぐに代理店が動いてスポンサーがついて、ビジネスになるプロ野球に対し、クリケットは今、小さいところから声をかけて“一緒にやってもらえませんか?”ってお願いする立場なんです」。

悲観しているのではない。自身の今の立ち位置を冷静に把握しているのだ。チームのみんながそれぞれの得意分野で実力を発揮し、協会が普及に注力するなかで、木村のなすべきことはひとつ。クリケット選手として、ともかく世界に通用する力を磨いていくこと。ひいてはそれがクリケット普及のための最大の貢献となる。
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