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荻窪のお座敷スナックで、実家の農作業を手伝う看板娘に涙ぐんだ
看板娘という名の愉悦 Vol.16
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
スナックのアルバイト女性は、水商売に慣れていないぐらいがちょうどいい。今回も、そんな看板娘を発見した。いそいそと向かったのは荻窪。
小さな飲食店が密集するこのエリアに、目指すスナック「Laugh」があった。2階に通じる階段を上がる。
ドアを開けると、ザ・スナックといった佇まいの店内。いいですねえ。
看板娘のアニーさん(28歳)はラフなTシャツ姿だった。冒頭にも書いたように、こういうギャップもよい。
OK、それをいただきます。
スナック勤めは初めて。しかも、4月から働き出したばかりとあって、フレッシュ感に満ち満ちている。よーし、1杯ごちそうしますよ。
Tシャツには真っ赤な唇のイラスト。背中側には「LIP KILLS STAY AROUND」の文字。
アニーさんも「あ、背中側が気にしたことがなかったです」とのこと。なお、彼女はKINAという洋服ブランドのデザイナーで、年間で100着近くをリメイクして世に送り出しているそうだ。
ここでママが言う。
「入り口の看板もアニーが描いてくれたの。あれを出してから、一見の若いお客さんが増えたんですよ」。
そう、この店がユニークなのはお座敷スタイルだということ。客は入り口で靴を脱いでから席につく。椅子に座るより自分ち感が増す。
ママにアニーさんの印象を聞いてみた。
「真面目だし、責任感も強いんですよ。入って3回目という異例の早さで店の鍵を渡しました。あと、教えたことは全部メモを取ります。これをしたのは、アニーともうひとりの子だけ」。
ちなみに、美咲さんがここのママに就任したのは今年の2月。先代のママが急遽辞めることになったため、知り合いに頼まれて店を引き継いだという。
「前のママが大のフクロウ好きで、店内はフクロウグッズであふれていたんです。全体的に茶色い印象だったので、一部だけ残してお花とかを飾っています」。
アニーさんが持っているのはママの家にあった鉢。ママが指差しているのは、お客さんから就任祝いでもらったバラだそうだ。
なお、アニーさんは千葉県船橋市出身。船橋といえば、そこそこ都会のイメージがあるが、実家は代々続く農家で畑と田んぼを持っている。
「春はにんじんの出荷、ゴールデンウィークは田植え、夏はハウス野菜の管理、秋にほうれん草の種を蒔いて冬に収穫するんです。忙しいときはよく手伝いに帰りますよ」。
おっと、泣きそうになった。
スポーツも大好きで、小学校から専門学校までずっとバレーボール部に所属。昨年からは草野球チームにも入った。
ここまで好印象の情報しかない。隣で飲んでいた紳士にもアニーさんのことを聞いた。
「ほんわか系だよね。質問へのレスポンスがワンテンポ遅れるところも安らぐし」。
この日は、阿佐ヶ谷にある「無知の知」というバーのマスターも来ていた。アニーさんはそこでも働いているのだ。
「僕はアニーのことは、『よく喋るじゃがいも』だと思っているから。まあ、でもいい奴だよ。何を隠そう、アニーをママに紹介したのも僕です」。
そう言うと、カラオケでおもむろに河島英五の『時代おくれ』を歌い始めた。
歌い終わったマスターが言う。
「そうだ、アニー。ブルーハーツが好きなら友川カズキとかを聴いたほうがいいぞ。あれもパンクだから」。
こういう人柄なので、やはり周囲の大人たちに愛される。前回の誕生日も阿佐ヶ谷のバーで大々的に祝ってもらったそうだ。
「お礼にみんなを驚かそうと思って、髪をツンツンにして行ったんですよ。もったいないから、お店を何軒かハシゴしました」。
思う存分ほっこりしたところでお会計。読者へのメッセージは、さすがデザイナーというクオリティの高さでした。
【取材協力】 Laughhttps://www.facebook.com/Laugh-ogikubo-1805844613013204/ アニーさんのTwitterhttps://twitter.com/Anniiiiiiiiie 石原たきび=取材・文