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2018.05.31

たべる

荻窪のお座敷スナックで、実家の農作業を手伝う看板娘に涙ぐんだ


看板娘という名の愉悦 Vol.16
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。


スナックのアルバイト女性は、水商売に慣れていないぐらいがちょうどいい。今回も、そんな看板娘を発見した。いそいそと向かったのは荻窪。

北口の荻窪銀座街


小さな飲食店が密集するこのエリアに、目指すスナック「Laugh」があった。2階に通じる階段を上がる。

お邪魔しますよ


ドアを開けると、ザ・スナックといった佇まいの店内。いいですねえ。

こちらの美しい女性は美咲ママ


看板娘のアニーさん(28歳)はラフなTシャツ姿だった。冒頭にも書いたように、こういうギャップもよい。

「好きなお酒はいいちこのウーロン茶割りです」


OK、それをいただきます。

ぎこちない手つきで作ってくれた


スナック勤めは初めて。しかも、4月から働き出したばかりとあって、フレッシュ感に満ち満ちている。よーし、1杯ごちそうしますよ。

さっそく乾杯


Tシャツには真っ赤な唇のイラスト。背中側には「LIP KILLS STAY AROUND」の文字。

どういう意味だろう?


アニーさんも「あ、背中側が気にしたことがなかったです」とのこと。なお、彼女はKINAという洋服ブランドのデザイナーで、年間で100着近くをリメイクして世に送り出しているそうだ。

カバンのイラストもアニーさんによるもの


ここでママが言う。

「入り口の看板もアニーが描いてくれたの。あれを出してから、一見の若いお客さんが増えたんですよ」。

「靴を脱いでまったり寛げる」とある


そう、この店がユニークなのはお座敷スタイルだということ。客は入り口で靴を脱いでから席につく。椅子に座るより自分ち感が増す。

あぐらもかき放題


ママにアニーさんの印象を聞いてみた。

「真面目だし、責任感も強いんですよ。入って3回目という異例の早さで店の鍵を渡しました。あと、教えたことは全部メモを取ります。これをしたのは、アニーともうひとりの子だけ」。

そのメモは今も持ち歩いている


ちなみに、美咲さんがここのママに就任したのは今年の2月。先代のママが急遽辞めることになったため、知り合いに頼まれて店を引き継いだという。

「前のママが大のフクロウ好きで、店内はフクロウグッズであふれていたんです。全体的に茶色い印象だったので、一部だけ残してお花とかを飾っています」。

今はこの一角だけがフクロウコーナー


アニーさんが持っているのはママの家にあった鉢。ママが指差しているのは、お客さんから就任祝いでもらったバラだそうだ。

ずいぶん華やかになりました


なお、アニーさんは千葉県船橋市出身。船橋といえば、そこそこ都会のイメージがあるが、実家は代々続く農家で畑と田んぼを持っている。

「春はにんじんの出荷、ゴールデンウィークは田植え、夏はハウス野菜の管理、秋にほうれん草の種を蒔いて冬に収穫するんです。忙しいときはよく手伝いに帰りますよ」。

おっと、泣きそうになった。

春はにんじんの収穫と出荷作業を手伝う


スポーツも大好きで、小学校から専門学校までずっとバレーボール部に所属。昨年からは草野球チームにも入った。

先輩のユニフォームを借りて試合に参加


ここまで好印象の情報しかない。隣で飲んでいた紳士にもアニーさんのことを聞いた。

「ほんわか系だよね。質問へのレスポンスがワンテンポ遅れるところも安らぐし」。

お褒めのコメントが続く


この日は、阿佐ヶ谷にある「無知の知」というバーのマスターも来ていた。アニーさんはそこでも働いているのだ。

「僕はアニーのことは、『よく喋るじゃがいも』だと思っているから。まあ、でもいい奴だよ。何を隠そう、アニーをママに紹介したのも僕です」。

そう言うと、カラオケでおもむろに河島英五の『時代おくれ』を歌い始めた。

目立たぬように はしゃがぬように


歌い終わったマスターが言う。

「そうだ、アニー。ブルーハーツが好きなら友川カズキとかを聴いたほうがいいぞ。あれもパンクだから」。

もちろんメモするアニーさん


こういう人柄なので、やはり周囲の大人たちに愛される。前回の誕生日も阿佐ヶ谷のバーで大々的に祝ってもらったそうだ。

「お礼にみんなを驚かそうと思って、髪をツンツンにして行ったんですよ。もったいないから、お店を何軒かハシゴしました」。

その時のパンクヘアー


思う存分ほっこりしたところでお会計。読者へのメッセージは、さすがデザイナーというクオリティの高さでした。

ペコちゃん風の自画像付き


 

【取材協力】
Laugh
https://www.facebook.com/Laugh-ogikubo-1805844613013204/

アニーさんのTwitter
https://twitter.com/Anniiiiiiiiie

 

石原たきび=取材・文

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