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「薬漬けよりも潮漬けが心を癒やす」小山内 隆さんが海を目指す理由
海は広くて大きいから、目指す人たちの理由も十人十色。そこで知りたくなったのは、まっとうな大人の男たちが、なぜそんなにも熱心に海を目指しているのか、ということ。各人バラエティに富んだ話から、共通していることがあった。それは幸せそうな笑顔を見せて楽しい人生を歩んでいるということ。皆さん、海を目指して、何かいいことありました?
海を愛する男たちに、海を目指す理由を聞くこの連続企画。最後となる今回は雑誌「サーフィンライフ」編集長・小山内 隆さんに話を伺った。
サーフィンライフ 編集長 小山内 隆 さん(46)
おさないたかし●東京都出身。編集者。隔月刊誌サーフィンライフ編集長。オーシャンズ・コントリビューティング・エディター。東京から各地の海へ。今年はサンフランシスコとポルトガルのビーチシーンを取材してきた。
「薬を飲むより、ただ波に乗るだけ」
近年、ベトナムのリゾート、ダナンへのサーフトリップが盛況ですが、周知のとおり、ベトナムは大戦争が起こった国。殺戮が繰り返された地で、世界で最もピースなスポーツが楽しまれているのだから感慨深いものがあります。
このサーフィンとベトナムという両者の関係を考えたときに思い浮ぶのが、不朽の名作『地獄の黙示録』です。戦火のなかにありながら、いい波が立つと耳にしたサーファーの米軍兵士が、その波に乗るため海辺にあるベトコンの村を急襲します。
このシーンについて、11度のASPワールドチャンピオンに輝いたケリー・スレーターは、かつて、「あれこそサーファーの性だね」と言いました。生死の狭間にいながらも、いい波を優先するのがサーファーだというのです。普通の人には理解しづらい感覚ですよね。
このある意味で人を狂わせるサーフィンの力を、治療に役立てようとする試みがあります。アメリカ海軍がサーフィンのセラピー効果の有無について、100万ドルを投じて調査しているのです。3月10日付のワシントンポストによると、海軍が調査を始めた理由にはPTSD(心的外傷後ストレス障害)や、うつ病などの精神疾患を患う軍人の増加があるといいます。
そして調査は、1週間に1度のサーフィンを6週間繰り返し、サーフィンの前、最中、後にアンケートを取る形で行われ、現状では好結果が出ているようです。空や海という自然環境下での運動は想像以上の効果をもたらしていて、サーフィンが参加者の不眠症や不安感を減らし、物事をネガティブに捉えがちな思考を改善する兆しも見られたといいます。
もちろん、最良なのは、精神を病ませる戦争がこの世界からなくなること。けれども、そのような世界の誕生がしばらくは夢物語なら、最低限、戦争で傷ついた心を戦場へ行く前の状態にする方法を手にしたい。その方法が薬漬けではなく、ただ波に乗るだけなんて、なんとも愉快で夢のある話ですよね。
梶 雄太=写真 小山内 隆=文