「30年以上スタイリストとして活動してきて、自分でも人にも、たくさんの時計を着けてきました。個人的には、プロになってから今がいちばん時計を持っていない時期だと思います」。
長いキャリアのなかで、多くの時計のトレンドを経験してきた井嶋一雄さん。食わず嫌いはせず、職業柄か好奇心も強い彼はそのたびに実践してきたそう。
複雑機構がもてはやされればジャガー・ルクルトを、ビッグフェイスブームの折にはIWCの「ポルトギーゼ」やパネライを。しかし、それらはもう既に手放してしまっていて手元にはないと言う。
「いちばんの理由はサイズです。僕はカラダがコンパクトだから、流行していたデカめの時計はどうしてもしっくりこなかった。眺めるぶんには格好いいんだけど、自分がしても似合わなかったんです」。
その結果、残ったのがここで挙げている3本。テイストこそバラバラだが、共通するのはどれもケース径が38mm以下ということ。
「これ以上大きいものは僕的にはナシです。ベストは36mmですね」。
バイクや自転車を長年の趣味とし、還暦を超えてもスマートな井嶋さんの腕元には、やはり控えめな時計がよく似合う。
「この年になって実感しているのが、ものを知るには時間がかかるということ。公私両方で散々ものに溢れた生活をしてきたけど、今は消去法で残すものを選んで、ミニマルでいたいなと思うようになりました。
時計に限らず、ずっと同じものを使ってる人を見ても若い頃は何も思わなかったけど、今は『素敵なものと出会えたんだ、素晴らしいな』と思えるようになりました。僕にとってのそれは小ぶりな時計だったんです」。
品田健人=写真 今野 壘=取材・文