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ローカル生産が生み出した新たなプロジェクト

オーガニックコットンを使用したデニム。ボタンフライや裾のチェーンステッチなど、デニム好きも納得の本格的なディテールがうれしい。5万930円/ナヌーシュカ(ヒラオインク 03-5771-8809)
先にサンドラさんが言葉にしたとおり、持続可能な服作りに直接結びつく要素は、ずばり素材だ。ブランドとしては’25年までに、100%サステイナブルな素材でコレクションを構成することを目標としている。
とはいっても、何をもってサステイナブルな素材とするかはそれぞれの価値観がある。ナヌーシュカが重要視しているのは動物福祉の視点。ファー、羽毛、エキゾチックレザー、アンゴラ、モヘア、毛皮や革を利用するだけの目的で殺された動物の皮、動物由来成分を含む溶剤や接着剤。これらの素材は使用しない。サンドラさんは明言する。
「動物を傷つけて新しい何かを生み出す。そんなビジネスはしたくありません。個人的なことですが、愛犬のジニーを連れて散歩やハイキングに出かけ、自然の中で過ごす多くの時間こそ、創造力にインスピレーションを与えてくれるのですから。
もちろんリサイクル素材も重視しています。この素材こそ、大量生産と繊維廃棄物の負の連鎖を止める最初のステップとなるものです」。
最上級のメリノウールを使用した長袖ポロシャツとタンクトップ。持続可能な農法をサポートし、動物福祉基準を尊重した「レスポンシブル・ウール・スタンダード認証」を受けた素材だ。ポロシャツ4万3120円、タンクトップ3万5310円/ともにナヌーシュカ(ヒラオインク 03-5771-8809)
そして服そのものを作る素材はもちろん、包装や資材についても再生可能素材の使用を進めている。オンライン販売用のパッケージは、植物ベースで堆肥化可能なTIPA社(※2)のポリパックに切り替えた。
また下げ札、値札やお礼状などはすべて再生紙を使用する。壊れやすいセラミック商品を出荷するときの緩衝材には、こちらも堆肥化可能な充填チップを採用している。
また服に縫い付けられているブランドタグやサイズラベルの原料は、100%リサイクルポリエステル。そして店舗で使用するハンガーはリサイクル可能なプラスチック製である。
アルパカ、ウール、アクリルを混紡し、厚みがありながらも軽やかな風合いに仕上げたカーディガン。袖丈と着丈は長めの設定。オーバーサイズで着こなしたい。6万9850円/ナヌーシュカ(ヒラオインク 03-5771-8809)
意識的にローカル生産に取り組んでいる点にも注目したい。製品の80%以上を、本社のあるブダペストから300km圏内で生産している。
「ほとんどがハンガリー、もしくは近隣のヨーロッパ諸国で生産しています。輸送による負担を軽減することが大きな目的ですが、服作りにおいては、距離的にも心理的にも工場と緊密な関係を保つことが重要だと考えています」。
ローカル生産の考え方は新たなプロジェクトも生み出した。工芸品のワークショップなどを運営する地元のノハスタジオと共同で、ブランドのアクセサリーをプラスチック製から手作りのセラミック(磁器)製に切り替えたのである。
[左]リサイクル素材、オーガニック素材の使用など素材に対して真摯な取り組みを続ける。’19年より、希望する芸術系、デザイン系の大学にデッドストックの生地を寄付している。©️Nanushka [右]ハンガリー北部の村、テレーニで生産されているセラミック製のアクセサリーパーツ。©️Nanushka
アクセサリー製作の工房はテレーニという小さな村にある。ブダペストから北に約90km、スロバキア国境に近い山間の村だ。ここでは8人の女性が働いている。工芸コミュニティへの支援と雇用機会の創出。でも、そんなふうに堅い言葉に変換する必要はないのかもしれない。
このエピソードを聞けば誰もが「素敵なことだ」と思う。そんな率直な共感こそ、サステイナブルな社会を実現するための第一歩だからだ。


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