ハシシや糞をテーマにした香りもある中から
「タウアー・パフューム」のレール デュ デゼール マロカン分子生物学の博士号を持つアンディ・タウアーさんが設立。スイスの山奥で香料の調達からブレンド、瓶詰め、検査など一連の作業をタウアーさんがひとりで行うという孤高のクラフト香水だ。
その名を世界に知らしめた代表作が「モロッコの砂漠の風」。コリアンダーとクミン、プチグレインのトップノートから、ロックローズとジャスミンのハートノート、シダーウッドとベチバーのベースノートへと移り変わる官能的でパワフルな香調が強く印象に残る。
「店では世界各国から取り寄せた約600種類のニッチフレグランスやクラフト香水を扱っています。調香師同士のネットワークをたどって見つけることが多いのですが、最近は調香師個人がSNSで発信することもあり、ひとりで作っているような稀少なフレグランスにも出会える確率が高まっています。
この世界は奥が深く、ナーゾマットというブランドにはハシシ(大麻)を再現した香りがあったり、オルト・パリージには糞(堆肥)をテーマにした香りがあったり、びっくりするようなフレグランスも少なくありません」。
しかし、そんな膨大な数の中から、どうやって自分らしいクラフト香水を選べばいいのだろうか?
「香りを嗅いで、『好きか嫌いか』。それでOK。知識は必要ありません。そして気に入った香りを見つけたら、毎日つけ続けてください。1週間ほどつけても違和感がなければ、それが自分らしい香りです」。
「ナーゾマット」のシルバームスク数々のビッグブランドの香水を手掛けてきたレジェンド調香師、アレッサンドロ・グアルティエーリ氏のプライベートブランド。「クレイジーな鼻」という意味を持つブランド名のとおり、既存の常識を打ち破る刺激的なフレグランスがウリだ。
代表作のひとつであるシルバームスクは「誰のココロにも宿るスーパーヒーローの香り」。舞台照明の水銀灯をイメージした香りは、ムスキーでパウダリーな香りの中にかすかにグリーンが感じられ、甘いムスクの余韻が残る。
クラフト香水を手に入れたら、その魅力を引き出すつけ方も知りたい。
「足首や膝の裏、腰といった鼻から遠い場所なら、まず失敗することはないでしょう。体温が高く、服で隠れるような場所だとほんのり香らせることができます。大半の人は手首につけますが、鼻と近くなるためおすすめしません」。
安心感という点ではメジャーな定番フレグランスが上かもしれないが、稀少性や個性の演出という点ではクラフト香水に一日の長がある。探すときも、レコードや小説、アートを見つけるときのようなワクワク感を味わえる。
ファッションも香りも自分らしくありたい。そんなスタイルを重んじるおじさんにとって、クラフト香水は最高の選択肢だ。
教えてくれたのはノーズショップ 代表 中森友喜さん
国家公務員、ITベンチャー、アパレル企業を経て独立。2017年に世界各国のニッチなフレグランスブランドを紹介する香水専門店、ノーズショップをオープン。現在、日本全国に展開する6つの店舗で、世界12カ国から約40ブランド、約600種類の香水やルームフレグランスを取り扱う。香水文化のさらなる認知拡大に力を注ぐフレグランス界のキーマン。
鈴木泰之=写真 来田拓也=スタイリング 加瀬友重、大関祐詞=編集・文 押条良太、小山内 隆、髙村将司=文