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もともとは材木倉庫だったという物件をリノベーションし、2017年にオープン。独特の雰囲気で、街歩きの雑誌に取り上げられることも多い(撮影:尾形文繁)
だからと言って退職後の仕事に本屋を選んだのはなぜなのか、自分でもよくわからない。長年の夢だったわけではない。とくに本好きや読書家でもない。ただ「古本屋でもやろうかな」と思いついたのは事実。今ならその考えがいかに甘いかよくわかる。しかし当時は1000冊ほどある自分の蔵書を売れば、何とかお金は稼げると思った。
「きっかけって、そういうもの。僕の場合は“大志を抱いて本屋をやる!”ではなく、“とにかくやってみよう”だった。それで違うなと思ったら軌道修正すればいい。何でもやりながら考える性格なんです」。

「2017年、『本屋』を始めます。」

そこで試しに、所蔵していた本を段ボールに詰めて路上などで販売する「一箱古本市」に参加してみたら、見事に売れなかった。本を売る難しさを痛感し、仕事の合間に本屋巡りを開始。
「2017年、『本屋』を始めます。」と印刷した名刺を渡し、店主にあれこれ話を聞いてまわった。トークイベントやブックフェアなどにも顔を出しているうち、だんだんと本屋を取り巻く環境やビジネスのノウハウが見えてきて、気づけばほかの選択肢は考えられなくなっていた。
その後、古本だと買い取りの値付けが難しいと判断。「新刊があったほうが店に勢いが出る」と指南してくれた人の影響もあり、利益は減っても最初から値段の決まっている新刊を扱おうと方針を固めた。
店は中2階がある独特の空間にひかれ、築約60年の元材木倉庫を借りた。偶然の出合いからのひとめぼれだった。全面的にリノベーションが必要だったので、新聞記者時代に知り合い、大学でも教鞭をとっている建築士に依頼すると、大学生のワークショップとして作業が進んだ。
リノベーションにあたって特段こだわりはなく、「自分でリクエストしたのは、中二階を畳敷きにしてほしい、ということぐらい」。あとは学生らの活発な議論を頼もしく見守りつつ、全面的にお任せした。
むき出しの構造をいかして、壁一面に設置した書棚が圧巻。中二階は畳敷きになっていて、コーヒーと一緒に買った本を読むこともできる(撮影:尾形文繁)
この調子で店の名前やロゴ、ポスターなども、自分が頼みたい人にお願いしていった。「こうやって考えると僕がオリジナルで考えたものって、それほどないかもしれないね」、そう苦笑いするほど気負いがない。背景には新聞社でデスクをしていたとき、得意な分野に記者を振り分けたほうが良い記事ができた、という実感がある。
2017年2月には資本金100万円、社員は落合さん1人で会社を設立。法人化したほうが社会的な信用を得られやすいと考えたことと、雑貨やコーヒーの販売、ワークショップの企画・運営、レンタルスペースなど、売り上げの柱を複数、持ちたかったからだ。
起業のノウハウは東京都中小企業振興公社のTOKYO起業塾で学んだ。SNSの活用法などアイデアを得たが、失敗事例の講義では開業後1年以内に3割、5年以内に6割の会社が消えるという廃業率のデータを見て恐れおののいた。初期投資にかかった費用600万円は退職金などで工面し、リスクを避けて借金はしなかった。


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