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歴史的快挙によって背負った日本サーフィン界の課題

各界のトップアスリートによる熱戦の数々が高い注目度を生み出すオリンピックはスポーツのショーケースと呼ばれる。特にマイナースポーツにとっては存在を多くの人に知られる絶好の機会。
実際、五十嵐や都筑の上位進出によって試合が民放でライブ放送され、2人は閉幕後も多くのメディアに登場した。過去に例がないほどの注目を集めた両者の活躍は、日本サーフィンにおける偉業と言っていい。
そこで冒頭に戻る。多くの人に好意的に受け止められ、サーフィンは社会的なスポーツとなった。それは、テニス、サッカー、野球、バスケットボールなどと肩を並べたことを意味する。
さらにカルチャーやライフスタイルという独自の世界観を持つサーフィンを、今後、どのように盛り上げていくのか。そのような課題を日本のサーフィン界は背負うことになった。
ひとつの解決法は次なる五十嵐や都筑を育てることだ。CTでの活躍や、3年後のパリ大会、7年後のロサンゼルス大会でメダル獲得を狙えるサーファーを育み続けることである。そのために大野プロは「業界外からの力が必要だと思う」と言った。
背景には、ひと昔前に比べて“世界との接点”が明らかに減少している日本サーフィン界の実情がある。
「ジュニア世代には才能豊かなサーファーが多くいます。彼らが飛躍するには早いうちに世界レベルを体感することが重要なのですが、今の日本にはそのための仕組みと環境がないに等しいと感じます。
少し前まで、海外の試合を転戦する際にはスポンサーが選手たちを手厚くサポートしてくれましたし、トップオブトップの選手たちとの旅企画など“世界”を感じられる機会を設けてくれました。精鋭たちが競うCTも過去には日本で開催されていてスポンサー枠で出場した日本人選手もいます。
しかし今の若い選手はそのどちらも期待しにくい状況。僕は未来に対して小さくない危機感を覚えています」。
世界を経験できないのが日本サーフィンの現在地。だから若手の成長を支える資金や仕組みづくりに関する知見などで大野プロは“外の力”を求める。
さらに現代は頭脳明晰でなければ勝てない時代。現役を退いたのちの人生を思っても、今後は教育面でのサポートは必須だと考える。
「もしサーフカンパニーではない日本の企業が国際大会のスポンサーとなれば状況は大きく変わると思います。世界のサーフィン界における発言力は強まり、スポンサー枠で日本人選手が大舞台に立て、CTを日本に誘致できる可能性も生まれます。
実際にブラジルはそのような投資を長い年月をかけて行いました。飲料メーカーや通信会社などがスポンサーとなり、グレードの高い国際大会をいくつも自国で開催して選手に力をつけさせ、CTに送り込んでいったのです。
ついには金メダルを獲得したイタロやガブリエル・メディナといった世界王者を輩出し、名実ともに世界屈指のサーフィン強国となりました。ほんの少し前まで国際的なポジションは日本とそう変わらなかったのに、です」。
もし今アクションを起こさなければ、メダリスト誕生によるそう長くはないブームを経て、オリンピック前の状況に戻る可能性がある。近い将来に3度目の夏季オリンピックが日本で行われることもない。そう考えれば、かつてない追い風が吹く今はサーフィン強国を目指せる最後のチャンスであるようにも思えてくる。


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